バットラック〜another skill〜
第九話
「何っ!!」
桜花からアレスがベイルアウトしたことを告げられ驚きの声を上げる。
ケンは自分の機体を別方向からやってくる敵飛行隊に向け飛行を続けているが、
背部から複数のEM戦闘機が迫っておりアラームが鳴り止まない。
ケン機に続いて着いてきた味方機もドンドンと落されていく。
“所属不明機複数接近中、先ホド報告シタ超大型爆撃機ヘ向カッテイマス。”
「チッ、正確に数を報告しろレギン!!」
“失礼イタシマシタ。接近中の所属不明機は二個編隊デス。”
「データバンク照合確認シタ、ケン。大丈夫ダヨ、前方カラ接近中ノ編隊はアメリカ亡命
政府所属ノ在韓米軍ヨ♪前ニ会ッタ閻ッテ人ノ機体ガ引キ連レテイルヨ〜。」
アルがそう報告すると同時に閻から通信が入る。
『こちらサイレント1・・・閻大尉!!米軍にコネがあってな、米空軍を少し借りてきた。
こっちは任せろ、ケン大尉が着くまで時間は稼げる・・・・ん?何だ・・・超大型爆撃機の背の部分が全てユックリ開いていくぞ・・・・?
・・・・なっ!!全機退避だ、たい・・・・』
そこで通信が途絶した。
「おい、閻大尉!!大尉・・・・返事しろ!!」
「マサカ・・・・ヘカトンケイル・・・・ウソヨ・・・・アレヲ持チ出スハズガ・・・・・。」
アルが怯えるように声を震わしながら呟くとケンは荒々しく操縦しながら声を荒げる。
「おいっ、アル!!何なんだ・・・・そのヘカトンケイルって!?」
「イヤ・・・アンナ・・・アンナノ・・・・。」
怯えきってケンの声も聞えていないらしいアルに、“チッ”と舌打ちしたケンは
一時的に無線を後部座席への内線だけにして息をいっぱい吸い・・・そして・・・・・・・・・・・、
「ブツブツうるせぇ!!さっさと説明しないと空中にホッポリ出すぞ!!
俺はこれ以上仲間を失いたかねぇんだよ!!おら、さっさと説明しろ!!
聞えてんのか!?アルフィード!!」
「ウワッ!!キ、聞エテル、聞エテルヨ!ソンナ怒鳴ラナクテイイジャナイ!!」
ケンが荒々しい大声でアルの意識を恐怖から現実の戦場へと戻す。
「済まない、だがお前の意識がここにあらずだったんでな・・・・。」
「ゴメン、サッキノ通信ヲ聞イタカギリデ判断スルト多分“巨大殲滅爆撃機ヘカトンケ
イル”ヨ。多分閻トイウ人ガヤラレタノハ“ヘカトンケイル”の背部に搭載されているミ
サイル発射装置群ダヨ、数十門ノミサイル発射管ガアッテ連続発射スルヨ。
デモ装填ニモ時間ガカカルカラ、今ノウチニハヤクオトスヨ!!ハヤク!!ジャナイト大変ナ事ニナルヨ。」
「どういうことだ?」
「アノ悪魔ノ一番キケンナノハ・・・・・。」
巨大殲滅爆撃機ヘカトンケイル 管制室
「接近中の敵機・・・全て迎撃完了しました。」
「よし、これより“フォビトン”の発射準備を開始する!!」
異星人軍の参謀アクリサが指示を出すと火器管制官が回転式の椅子を回して振り返る。
「しかし・・・衝撃反動弾“フォビトン”は街一つ破壊する威力のある物・・・・使う必要があるのでしょうか?」
「ふん、ここの基地と艦隊を消してしまえば地球人の戦力はほぼ零に等しくなり我々の邪
魔をするものは居なくなるのだ。まぁ総帥の思惑としてはフォビトンの威力を見せて地球
人の反抗心を砕くのが目的らしいがな・・・。」
「敵機接近、数は4・・・。」
レーダーを見ていた士官の報告にアクリサは“やれやれ”といった表情でため息をつく。
「しつこいな、ミサイル発射装置群は?」
「装填中です!!」
「ならキリエルを出撃させ速やかに殲滅せよ。」
ラン機やビオシー機と合流したケン機・・そこに桜花機が合流した4機編隊は巨大殲滅爆撃
機ヘカトンケイルへと近づいていた。
『デカイわね・・・・あれじゃあ爆撃機というより空中空母と言った方がいいかも・・・。』
『そうですね・・あれが閻大尉の編隊を落としたんですね・・。』
ランからの通信にビオシーも声を震わせながら同意する。
そんな通信を聞きながらケンは桜花機へと通信を繋ぐ。
「ブラックバード1ケンよりブロッサム1桜花機へ・・・貴機はアレス中尉の救助に向かう
ヘリの護衛へ行け。ここは任せろ。」
『しかし・・・。』
「ほかの事を心配していると落とされる事になる・・・・行くんだ桜花少尉!!」
『・・・・・っ・・了解しました、これより救助ヘリの援護へ向かいます、グットラック!』
桜花のラファールがゆっくりと離脱していく。
「よし、ブラックバード1より各機へ、アルの情報によるとしばらくミサイルは発射でき
ないが対地対空火器群がまだ残っているらしい・・・・気をつけてかかれ!!」
『了解!!グットラック!!』
ビオシーとランのF−22がケン機から離れて散開し、ヘカトンケイルの各部からの対空
砲火を回避しながら一斉にヘカトンケイルへとミサイルで攻撃する・・・・が、
ケン達の視界に入ったのは無傷のヘカトンケイルの姿、そしてヘカトンケイルは“キリエ
ル”と呼ばれた戦闘機を次々と発進させてくる。
『ダメです、大尉!!』
『ミサイルが効かない装甲!?そんなの有りなの!?』
「アル、あいつの弱点はないのか?」
アルは少し悩むように目を伏せた後、パッと目を見開く。
「有ルヨ!!ヘカトンケイルノ大型ブースター4基ノ排気ノズル!!
アソコハ装甲ガ厚クナッテナイ!!打撃アタエラレルカモ!!」
「よし!!俺達で試すぞ!!レギン、対空砲火に対する回避パターンを作成!!
アルはバランス制御を!!突っ込むぞ!!」
ケンは機体を反転させて一気にヘカトンケイルに突っ込んでいき、襲い掛かる対空砲火を
潜り抜け、キリエルの攻撃も避けヘカトンケイルの排気ノズルを狙える位置に移動すると排気ノズルをロックオンする。
「フォックス2!!」
X−09から発射されたミサイルは順調に飛んで行き・・・・・排気ノズルに直撃しブースタ
ー1基を巻き込んで凄まじい爆発を起こし一瞬ヘカトンケイルがぐらつく。
「よし、ラン、ビオシーも攻撃を開始しろ!!」
その時だ・・・・ヘカトンケイルの底部がユックリと開いていった。
「ケン!!ヤバイヨ!!“フォビトン”ガ!!!!」
「くそ・・一体どうしたら・・・。」
アルは少し悩んだ後、これまでで見たこともない真剣な表情を浮かべた。
「一ツダケ考エガアルヨ。」
巨大殲滅爆撃機ヘカトンケイル 管制室
「第三ブースター爆発!!それに連動してシステムに不調が・・・・。」
「チッ!!ヘカトンケイルの弱点がこんなに早く敵に露呈するとは・・・・。
まぁいい!!フォビトンの投下準備を急がせろ!!アレを落とせば我々の勝ちだ!!」
アクリサの言葉に管制室に居た士官達に血の気が戻るが、再び襲う激しい振動に士官たち
の表情は絶望の表情に戻ってしまう。
「参謀鳳士!!次は第2ブースターが!!これ以上やられると通常飛行にも支障が発生して・・。」
「分かっている!!!黙って作業を進めろ!!キリエルはまだ蠅どもを落とせないのか!」
そしてまた激しい振動が残り2基の内の1基が破壊された事を示し補助ブースターで何と
か飛んでいるヘカトンケイルの現在の状況を感じながら、内心焦りだしていた。
しかし部下の言葉に表情はやや冷静を戻す。
「フォビトン投下準備完了・・・・なんとか投下地点である敵基地上空まで到達しまし
た!!」
「よし、敵基地の対空砲火が激しくなる前に落とす・・・・投・・・!?」
突然送られてきた敵戦闘機からの通信にアクリサは驚きの表情を浮かべた。
『私はアルフィード、貴殿らの最高司令官シルフィードの妹です。
現在ケン大尉の戦闘機X−09の後部座席に搭乗しています。
直ちにフォビトン投下を中止し直ちに帰還しなさい!
フォビトンを投下するという事はここに居る私も殺すことになります!!』
「なっ!?アルフィード様が何故敵戦闘機に!?」
子供のような無邪気ないつもの表情ではなく、凛々しい表情で・・・地球上のどの言語でもな
い言葉を使って後部座席でヘカトンケイルへ通信を送っているアルを視界の端に捉えながらケンは
複雑な気持ちになっていた。
この通信はアル自身の発案だが、アルを事実上人質にしているようなものだったからだ。
「クソ・・・俺は弱い・・・・少女を人質に取らなければ基地を守ることも出来ないのかよ。」
ケンがそう呟いた時、アルは通信を切る。
それに合わせるようにヘカトンケイルがブースターから煙を上げながらユックリと離脱していく。
『あ、戦闘区域外に離れていきますよ、追跡しますか?』
『ビオシー、貴方は何を聞いているの?深追いはしないと打ち合わせした筈よ。』
『あ、そうでした・・・。』
そんなビオシーとランの通信を聞きながら
「フゥ〜何トカフォビトンノ投下は防ゲタヨ♪」
アルの言葉に何の反応もしなかったケンの肩をポンとアルが叩く。
「アレ、ドウシタヨ?ケン。」
「・・・あっ、いやなんでもない・・・すまないな、アルを人質にするような真似をして・・・。」
「気ニシナイヨ・・・・ソレヨリ兄様ニ居場所知ラレタ事ガイタイカナァ・・・・・・・。」
アルが苦笑するがまたケンは上の空だった・・・・。
「ケン、アノ船ハ何?ケンっ!!!」
「あ、え、あの船か・・・調査船のようだが戦闘区域で何を・・・・、あとで艦長に聞いてみよう。
ビオシー、ラン、帰還して一端情報を整理しよう・・・。」
『ブラックバード3、了解しました。』
『ブラックバード2、了解。』
基地へと機首を向けたX−09の後部座席でアルは先ほどから変なケンを見つめていた。
第十話へ