バットラック〜another skill〜

バットラック〜another skill〜

 

 

 

第十話

 

 

 

「やれやれ、今回は退けられたか・・・よかった。日本が堕ちたら我が国が最前線になるところだった・・・。」

中国、山東省にある防空基地司令のリーはそう呟き、将官用の軍事帽を目深に被りながら

司令部で報告書を読んでいた。

そんな時だった、突然レーダーが所属不明の飛行物体を捉えた事による警報が鳴りだす。

リーは報告書を投げ出しスグにレーダー手に駆け寄る。

「どうした?」

「日本海から大型の飛行物体が発射されました!!光学で捉えた形状はデータと一致せず!!

おそらくEMの兵器かと思われます!!大きい!!ICBM(大陸間弾道ミサイル)以上です!」

「ちっ!!日本の探査基地は何をしていたんだ!?さっさと対空ミサイル群を起動させ

ろ!!ミグも空対空ミサイルを搭載させて空に上げろ!!

各種誘導弾準備、高射機関砲はどうした!!早く格納庫から引っ張り出せ!!」

そして次々とミサイルが発射され、ミグは空対空ミサイルを装備して飛び立っていく。

そして遠くの空で凄まじい爆発と煙が起こる、それを司令室から見ていたリーは

“撃墜した”と思いニヤリと笑うがレーダー手の言葉に表情が再び焦りへと変わる。

「ダメです、ミサイル群およびミグ隊の攻撃・・・失敗です!!」

「クソッタレが!!高射機関砲と誘導弾で落とせ!!北京も近いんだ!!

ここで落とさなければ北京が火の海だし、俺たちの首も飛ぶ。

何としても落とせ!!」

謎の飛行物体は数分後には視界に捉えられるようになった、高度的には意外と低いところを飛行しているようだ。

射程距離内に入ったのか高射機関砲などが一斉に火を噴く。

すると弾は命中し始め飛行物体は火の手を上げて基地近くの空き地に落ちて爆発した。

「よし!!兵に確認させろ、安全が確認されたら私も行く!!」

「ハッ!了解しました。」

そして爆発の危険はなくなったと部下から報告を受けたリーは落下地点に向かう。

そこには黒く焦げた巨大な物体がそこにはあった。その大きさは大型のトレーラーですら

比ではない大きさであった。リーは部下の制止を聞かずにゆっくりと歩み寄りその物体に触れる。

「大きいな・・・・・・・何っ!?」

リーが触れた瞬間、ガチンと何かが外れる音と共にまるで卵が割れるかのように外装が剥がれていく。

「う、撃て!!早く破壊するんだ!!」

リーの言葉にその場にいた兵達は様々な火器を物体に向けて撃ち始め・・・その内の数人の

兵が対戦車ロケットランチャーを発射し、その場が爆風と砂煙に覆われる。

リーはこの砂煙が晴れたらそこには残骸しかないと確信していた。

しかしその確信は砂煙の晴れた直後に砕かれた。

砂煙の晴れた時・・・リーの視界に入ったものは・・・・

黒く・・・・巨大な・・・・・・・・・・・・・・。

「怪物め・・・・。」

その十数分後・・・防空基地は瓦礫の山になっていた。

 

 

「数時間前から山東省の防空基地からの通信が途絶えている、そこで大尉には

悪いが偵察任務についてもらう。

前線基地であるココをスルーして中国まで敵の手が伸びてたら最悪だからな。

偵察空域は防空基地から日本海沿岸まで。

武装は機銃のみ、時間をかけて隅々まで偵察してもらうからな・・・・

燃料を胴体内のほかに四本の増加燃料タンクを満タン腹に積んで飛んでもらうぞ。

離陸重量は最大ペイロード(積載重量)スレスレだから、離陸時は気をつけろ。」

「了解。」

ウィルクスの作戦説明に頷いたケンはユックリと格納庫へ向かう。

通路ではアルが待っていた。

「艦長ハ何ノ用ダッタノ?」

「単独飛行での偵察任務だよ。」

「オォ〜ケント二人ッキリで飛ブンダネ〜♪」

「いや、今回は一人で飛ぶ。」

「ナンデヨ!!私ハ絶対シナナ・・・・。」

「そうじゃないんだよ、アル。ちょっとな・・・・一人で飛びながら考えたいことがあるんだ。」

ケンがそう言いつつアルの頭を優しく撫でるとアルは“ワカッタヨ”と頷く。

ケンは微笑んで再び格納庫へと歩みを進め、やがて格納庫内に入る。

「あ、大尉。今空撮用のカメラを取り付け終わった所です。これから軽く動作テストや

燃料給油に入るので少し時間かかりますよ、基地内を散歩してみては?」

申し訳なそうな表情で汚れた作業服を着たテノールがケンを見つけ、言うと

ケンは苦笑して格納庫から外に出て基地のフェンス越しに空を見上げる。

 

「大尉、どうしました?アルちゃんのことでも考えているんですか?」

「いいや、はずれだ、ラン中尉。」

ケンの目の前にはランが立っており“それは残念”と苦笑していた。

「じゃあ何を考えながら空を見上げてたんです?」

「何故自分はこんなにも無力なのか?・・・・・かな。」

ランはケンが自嘲気味にそう言うと、いつもとは違う表情をする。

上司をオチョクル女性ではなく・・・まるで自分の子を見ている母親のような表情。

「まだあの事を引きずっているの?ケン。」

「それもあるけどさ、ラン姉・・・。今回・・敵の大型爆撃機との戦闘、アレス中尉は助かった

が閻大尉は機体は見つかれど本人は行方不明・・・・しかも爆撃機を止めるのにアルを人質に

するような真似をしてしまった・・・。そんなことしなくてもみんなを守れる力が欲しいよ。

力があればあいつだって死なずにすんだ。」

ケンは自然に流れ出してしまっている涙を隠すように右手で両目を覆う。

ランはユックリとさらに近づきケンを抱きしめ、子供をあやす様に撫でながら耳元でささやいた。

「ケン・・・・人はね、一人じゃ一人前には絶対になれないの。何のために仲間がいて、部下がいて上司がいて・・・アルちゃんが貴方の機体のナビをやっているのか・・・・今回の単独飛行の間・・・、ジックリ考えて見るの。いいわね?」

「あぁ・・・。」

ケンの短い返事を聞いたランはケンの頭を今度は思いっきり叩き、ケンから離れる。

「いっつぅ〜、何するんだ!?」

「もうそろそろ、機体の準備も終わるはずです、さっさと出撃なさいな、大尉。」

そう言ったランの表情はいつものものに戻っていた。

“まったく・・・。”っとケンは叩かれた頭を摩りながら格納庫へと歩みを進める。

そんなケンの背中をランは見つめつつ呟いた。

「気をつけてね・・・・、ケン。」

 

 

 

数十分後・・・・

通常より長い滑走をしてケンのX−09Aが飛び立っていく。

それをアルは基地の端にあるボロ倉庫の屋根から見送っていた。

「私ガ自分デ戦闘機操縦出来タラ私モ連レテ行ッテクレルノカナ?」

「そんなところで何やってるんですか?」

下からの声にアルが屋根から下を覗きこむとそこにはビオシーが立っていた。

「ビオッチコソ何ヤッテルヨ?」

「び、ビオッチは止めてください!!ってえ〜とここで何やっているかですけど、

今アルさんが乗っかっている倉庫には練習機が格納されているんです。

本当は整備部がやるんですけど、他の機体の整備や修理で出来ないという事で僕が

練習機の点検をやる事になりまして・・・。」

「練習機?・・・・・・アァァ!!丁度イイヨ!!」

アルは普通飛び降りたなら足の骨を折るだろう屋根から飛び降りる。

「え?・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

近づいてきてアルが言った言葉にビオシーは大声を上げた。

 

 

 

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