EARTHGUNS
C
ガチャン
マンションの一室、自分の家の鍵を閉めると、久々に素足を晒す服装に戸惑いながらも自分の足を隣の号室に向ける。
隣の号室のドアノブに手を掛け、捻ると普通にドアが開く。
「ふぅ・・・・。」
まったく無用心な事この上ない・・・だが、慣れている。
ゆっくりと部屋の中に入ると奥から静かな寝息・・・一人の青年がベットで寝ていた。
学生鞄を玄関に静かに置くと、靴を脱ぎそのまま部屋に上がる。
そして寝室のドアを開けるとやはり青年が静かな寝息をたてていた。。
ベットと机以外目立ったものは何も無いつまらない部屋・・・。
部屋を見回しているとあるものに目が留まる。
背が低い本棚の上に紙粘土で作った不細工な兎が飾られていた。
「・・・・・・・・・・。」
ふと懐かしい記憶がよみがえってくる自分に苦笑、しかし苦笑をすぐに収めて事務的な無表情に戻し、
寝ている少年の顔をポンポンと叩く。
「・・・・ぁ・・・・なんでここにアンタがいるんだよ、サクラさん・・・っていうかそれうちの学校の制服だ。」
「昨日の話、忘れたのかしら?」
「あ〜・・・えっと俺の監視だっけ?」
宮部から正式に対アンノーン部隊への参加を頼まれた水無瀬だったが、時間を貰いたいと言うと、
その代わりとして秘密を漏らさないよう監視をつけるという条件で基地から家に戻してもらったのだった。
「思い出したようね・・・ついでに教えておいて上げるわ。早く準備しないと遅刻よ?」
アリスはそう言って部屋を出て行く。
水無瀬が時計を見るとすでに家を出て学校に向かわなければいけない時間になっていた。
「うおっ!やばっ!!」
制服に着替え、鞄を持ち家を出る・・・・そして足を止めふと思った疑問。
「なんでサクラさん、制服着てるんだ?まさか・・・・まさかな・・・・。」
水無瀬の頭によぎった考えは後に的中する事になる。
「転校して来ました、サクラ・ケブフォルスです、これからよろしくお願いします。」
黒板の前で金髪の女性がにこやかに微笑みながらお辞儀をすると、クラス中からざわざわと沸き立つ。
「転校生、ハーフなうえにすごく可愛くないか?ってどうした水無瀬・・・頭なんか抱えて・・・。」
「いや、気にしないでくれ・・・現実を認めたくないだけだ・・・。」
担任に促され、サクラがゆっくりと空き席に座る。
そこは水無瀬の丁度後ろの席であった。
「ハジメマシテ、ヨロシクね。」
サクラのワザとらしいその挨拶に水無瀬は、大きく溜息をついた。
「ったく、監視といったってわざわざ学生として入り込んでこなくたって・・・・。」
購買で買ったパンを持ち、水無瀬は屋上への階段を上がる。
現在は寒さもあって屋上は昼食を食べる場所としては不人気であり、のんびりしたい水無瀬にとっては最高の特等席となっていた。
「ちゃっちゃと喰って昼寝でもするか・・・・・・ん?」
屋上へ出ると一人の女子生徒がフェンス越しに景色を見ていた。
水無瀬に気づいてその女子生徒が振り返る
栗色の長髪を後ろでまとめ、そしてキリッとした目をした女性だった。
「誰だ、貴様は?」
「はっ?俺?俺は水無瀬・・・・で、アンタは何をやっているんだ?」
「ふん、別に貴様に言う必要は無い!」
女性はそう言い、両腕を組んで水無瀬の横を抜け、校舎内へ入っていった。
「なんなんだよ・・・わけわからない・・・。まぁいいか・・・。」
「何がいいのかしら?」
「うおぉ!後ろからいきなり声かけるな!!」
水無瀬の後ろにはいつの間にかサクラが立っており、その手にはナフキンに包まれた弁当箱があった。
サクラは驚いている水無瀬を一瞥した後、備え付けの長椅子に座り弁当を広げる。
「こんな寒い中、屋上で食べるなんて変っているわね・・・水無瀬くん?」
「だぁ!!なんかサクラさんに呼ばれると背中がムズ痒い!!」
そう言いつつも水無瀬はサクラの弁当から玉子焼きを一切れヒョイと摘み上げ口に入れる。
「人の物を勝手に取るなんて最低ね・・・・。」
サクラは非難を込めて静かに言うが、水無瀬は気にしないで玉子焼きの味をかみ締める。
「手作り?」
「そ、そうだけど何か?」
「美味しい。サクラさん、料理上手いんだね。」
サクラは珍しく頬を赤らめる。
その時だ、風景が固まり空が白く染まる。影時間になったのだ。
「!?」
「落ち着きなさい。」
水無瀬が身構えるが、サクラは自分の腕時計をじっと見続ける。
すると影時間が終わり、冬晴れな空に戻る。
「小者だったみたいね・・・・。」
「小者?どういうことだ?」
サクラは自分の弁当を一口含み、ペットボトルのお茶を一飲みする。
「アンノーンは虫程度から貴方が戦った巨大な奴までいるの。詳しくは分からないけどアンノーンにとって、この世界の空気は毒らしいのよ。
小さければ小さいほどこの世界で生きていられる時間は短いのよ。その目安が約五分。
五分経っても影時間が終わらなければ出撃して倒す必要がある巨大なアンノーンが出現した事になるの。わかった?」
「ん〜、わかったようなわからないような・・・。あ、もう一切れ貰っていい?」
そう言いつつ弁当箱に伸びてきた水無瀬の手をサクラは思いっきりひっぱたいた。
つづく。