電脳のエタニティ

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第八話 〜electronic network  collapse

 

 

 

ジョセは地面を蹴り無防備に剣を持って立っているタンホイザーに突っ込んでいく。

そして拳を振り下ろすが空を切る。

「どこを見ているのですか?」

いつの間にかジョセの後ろにタンホイザーが移動していた。ジョセは態勢を何とか保ち、

振り向きざまに回し蹴りを繰り出すがやはり空を切ってしまう。

“確実に捉えたはずだ・・・・なぜ?”

タンホイザーが剣を構えながら言う。

「何故当らないか?なんて考えてたらいつまでたっても私を倒せませんよ、ジョセ様。よく私の動きを見ないとね・・・・。」

「何・・・・・・?・・・ッ!?」

ジョセの目の前で剣を構えていたはずのタンホイザーがまた一瞬でジョセの後ろに回りジ

ョセの背中を斬る。ジョセはなんとか体を逸らし深手だけは避ける。

「私のアクトウェポン【トリックスター】の能力・・・しっかり見ないと分かりませんよ。」

“なんなんだ・・・・ただ速いと言うわけじゃない・・・・、俺の視界から完全に消えた。・・・・も

う一回敵の動きを見てみるか。”

ジョセはそう思いながら再び突っ込んで行くがやはり・・・・・・。

「消えたっ!?」

「こっちですよ。」

今度はジョセの横に現れ剣を横薙ぎするがジョセも再び掠めながらも避ける。

「・・・・なるほどな。」

ジョセはいきなり目を瞑り、その状態で突っ込む。的確な動きで目を瞑っているのにもか

かわらず真っ直ぐタンホイザーに殴りかかる。

タンホイザーはそれを普通に避けた。

消えるのではなく避けたのだった。ジョセは目を開け“ふむ”と言いながら

拳を握り直し口を開く。

「やはり視覚を惑わすアクトの能力だったか・・・・・・。」

「ふぅ・・・・ばれてしまいましたか・・・・。まぁわかったからといって【トリックスター】の

能力から逃げられるわけじゃありませんけど。」

タンホイザーの言うとおりだった。目を開けていれば幻覚を見せられジョセの攻撃が当た

らず、目を瞑れば正確さに欠け、やはりジョセの攻撃はタンホイザーに軽々と避けられてしまう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ。」

ジョセはため息をつき両手をだらりと下げ、目を瞑る。

「諦めましたか。案外つまらなかったですね。」

タンホイザーは剣を構え真っ直ぐジョセに走りこみ脇腹に剣を突き刺す。

「終わりですね・・・・・。」

「それはどうかな?」

ジョセはノヤリと笑い左手でタンホイザーの肩をしっかりと掴む。

「これで逃げられないだろう?」

アクトウェポンである篭手をつけた右手で渾身の一撃をタンホイザーの顎に叩き込む。

タンホイザーは数メートル吹き飛び壁に叩きつけられ、そのまま気を失う。

「はぁ・・・・はぁ・・・・・・クッ!!」

ジョセが凄まじい痛みに膝を着く。脇腹にはタンホイザーの剣が深々と突き刺さっており

かなり出血していた。

「待ってろよ・・・・美里。」

脇腹に刺さっている剣を抜き投げ捨て脇腹の傷口を左手で押さえながらゆっくりと応接間

の扉を右手で開ける。

ジョセの視界に入ったのは透明な球体の中で膝を抱えて眠っている美里の姿だった。

周りを見るがリースとサヤの姿が見えない。近くにあった端末には【COMPLETION】の文字。

「美里っ!!」

ジョセが近づくが透明な球体に阻まれ、球体内にいる美里に触れることすら出来ない。

「起きろ、美里!!起きろ!!」

ジョセは力いっぱい透明な球体を叩き、叫ぶ。すると美里はユックリと目を開け視線をジョセへと向ける。

「美里・・・・・・。」

ホッとしたジョセだったが、次の瞬間美里の口の動きに愕然とした。

『ア・ナ・タ・ハ・ダ・レ・?』

声は聞こえなかった、しかし口の動きでジョセはわかったのだ。

そう・・・・すでに美里はデータを抜かれ記憶を失っていた。

しばらく呆然としていたジョセだったがいきなり右手を壁に叩きつけ、何かを振り払うよ

うに首を振って・・・・・・そして透明な球体を殴り始める。

その姿を見て球体の中にいた美里は驚きの表情をする。

「待ってろ、今出してやる!!」

何度も何度もアクトウェポンである篭手をつけた右手を透明な球体に叩きつける。

しかし透明な球体に壊れる気配はなく逆にジョセのアクトウェポンにヒビが入り始めた。

美里はその姿を見て涙を流し“やめて”と首を横に何度も振るが無視しひたすらジョセは

叩き続ける。すると透明な球体もヒビが入り始める。するとジョセは一旦右手の動きを止

め涙を流す美里を見つめ、微笑む。

「前に言っただろ、お前は・・・・美里は笑っている方が似合ってる。」

そしてジョセは右手に力を入れ渾身の一撃を透明な球体にぶつける。

するとジョセのアクトウェポンが砕けると同時に透明な球体も砕け散り美里が空中に放り

だされる。ジョセは急いで駆け寄り両手で美里を受け止め・・・ゆっくりと近くの椅子に美里を下ろす。

「大丈夫か?」

「あの・・・・・あなたは誰なんですか?ううん、違う。そもそも私は誰なの?なんでこんな所に?」

またそう言って泣き出しそうになる美里をジョセはゆっくりと抱きしめる。

「落ち着け。君の名前は美里・エルメス。」

「美里・・エル・メス・・・?」

「俺は君を助けに来た。そうだ、美里に渡す物がある。」

ジョセがポケットから取り出したものは天使の羽を模ったイヤリングの片方。

「これは?」

「美里・・・君の物だ。ほら、左耳はしているのに右耳はしていないだろう。」

そう言われて美里が手で耳を確認するとジョセの言うとおりだった。

そしてジョセから天使の羽を模ったイヤリングの片方を受け取ると美里は一瞬驚いたよう

な顔をするが、そのまま耳にはつけず微笑みながら抱きしめる。

「つけないのか?」

「何故か分からないんですけどこのイヤリングを持ったらとても安心するんです。」

そう美里が言ったときだった、青い顔をしてジョセがその場に倒れ、床に血が広がっていく。

美里は驚いて目の前にいる名前も知らない男(ジョセ)に駆け寄るがジョセは荒い息をし

て苦しそうにしている。ジョセの脇腹の部分が真っ赤に染まっていた。

「私・・・・どうしたら・・・・・。」

美里が戸惑っている間にもジョセは呼吸が弱くなっていく。

“死なせたくない・・・・”

美里は何故か目の前にいる自分を助けてくれた男をどうしてもたすけたいと思った。

まるで心の中で誰かが“死なせてはいけない”叫んでいるようだった。

すると美里が手に握っていたイヤリングが光を放ち始める。美里はゆっくりとそのイヤリングを抱きしめ目を瞑る。

≪SPモード開始します、アクト【慈悲の女神】発動≫

美里の背中に真っ白な翼が現れる。そして美里がゆっくりと目を開け、ジョセの傷口に手

を当てると、ジョセの傷口が凄まじい速度で治っていった。

 

 

ジョセはゆっくりと意識を取り戻し目を開ける。視界にはぼんやりと屋根が見える。

「お、俺は・・・・・・。」

「起きましたか?」

視界の中にいきなり美里の顔が入ってくる。よく見回してみるとジョセは自分が美里に膝

枕してもらっている事に気づき起き上がる。そしてふと脇腹に手を当てる。

「傷が・・・・治っている?」

美里はニコリと笑いながら立ち上がり口を開く。

「貴方に助けてもらった時にいた部屋、崩れそうだったんで移動しました。重かったんですよぉ〜。」

「すまない・・・・・・ってそうではなくてなんで俺の傷が治ってるんだ!?」

美里は苦笑を浮かべ首を横に振る。

「分かりません、気を失って傷で死にかけている名も知らないはずの貴方を見ていたら心

の底で誰かが【助けなきゃいけない】って叫んでいたんです。ううん、違う、誰かじゃな

い。私は貴方を助けたいと思った。そしたら何か自分でもよく分からないんですけど出来

たんです、アハハ・・・・。自分でもビックリ。あの・・・ごめんなさい。貴方の名前、教えてもらえますか?」

「俺の名前はジョセ・シュバイツァー・・・美里・・・君の同僚だ。」

「ジョセですか。」

「様付けは止めてくれ・・・・。」

「そう言われましても・・・。あの・・・もしよろしければもう一つ。記憶を失う前の私・・・・・教えてもらえませんか?」

ジョセは包み隠さず話した。美里の好物から美里の正体、現在の状況・・・美里はその話を真

剣に聞いていた。そして話し終えると美里は再び笑みを浮かべた。

「フフフ、これで分かりました♪」

「何がだ?」

「貴方を助けたかった理由です。」

「理由?仲間だからか?」

「知りたいですか?だったらそのブラックテクノロジーのファイルを奪い返して、記憶の戻った私に聞いてください♪」

笑って言う美里につられてジョセは笑いながら“ああ”と頷く。

そして二人は階段まで歩いていく。

「このまま階段を下りれば外に仲間が待機しているはずだ。」

「ジョセ様はどうするんですか?」

「もちろんリースを探してブラックテクノロジーのファイルと美里の記憶を取り返す。

この城は崩れかけている・・・・行くとすればここの一つ上の階にある大庭園くらいだ。」

「私も行きます。」

そう美里が言うとジョセは驚きの表情を浮かべ唸る。

「しかし・・・美里をこれ以上危険にさらす訳には・・・・・・・・・・・・・。」

その時、下の階へ続く階段が崩れて通れなくなる。美里はその状況を指差して苦笑する。

その顔は“連れて行くしかないですよね”と訴えていた。

「ふぅしょうがない・・・・・。」

「さすがジョセ様!!さぁ〜ぱっぱと行きましょう♪」

笑いながらハイテンションで上の階へと続く階段を駆け上がっていく美里を見ながらジョセはため息をついた。

「俺のことを様付けする以外、記憶失ってもあの性格とテンションは変らんのだな・・・・はぁ〜・・・。」

 

 

 

 

 

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