灰色のプラトーン

灰色のプラトーン

 

6.A TRAITOR

 

エルアドは相手の首を持ち、雪の上に転ばせ、頭に銃口を突きつける。

「待って!!私よ!捕虜のルカ!」

「知っているよ・・・・・隊長は?何故お前が一人で歩いている?」

「あぁ〜!!もう!!説明するからその銃口をどけてくれるとありがたいんだけど!!」

エルアドは“ふん”と鼻を鳴らし銃口をルカの頭からどける。

「ここで話して敵に見つかるのはごめんだ・・・付いて来い。」

ホバートラックに入るとミラーは表情を変えずに拳銃を取り出しルカに突きつける。

「はぁ〜、何でこの部隊は敵対する意思も持っていない相手に銃を突きつけるかな。」

突きつけられた銃を払いのけて、服についた雪を払うルカの右手に持つものを見てミラーはルカの胸倉を掴む。

「そのヘアバンドは隊長の物ですね・・・・返答次第では貴女を殺す・・・。」

「だからその事を話すために合流したのよ。喋りづらいから放してくれる?」

冷たい視線と殺気を纏ったミラーを逆に睨みつけるルカ。

見かねたエルアドがミラーの肩を叩くとミラーはルカの胸倉を掴んでいた手を離す。

ルカはトラック内の壁にもたれ掛かり、これまでの事を話す。

ジオンの追撃部隊に自分の幼馴染が居た事。

テスタメントがその幼馴染に自分を引き渡した事。

その時、自分がテスタメントの傍に居たいと意思を示した事。

テスタメントは自分にヘアバンドを渡して05部隊に特攻しMSを自爆させた事。

そして・・・・・。

「私はあんた達の隊長・・・・テスタメントは生きていると確信しているわ。根拠は無いけどね。」

話を聞いたミラーは少し思考した後、ホバートラックのエンジンをかける。

エルアドもホバートラックから飛び出し、カモフラージュして隠してある自分のジムキャノンに向かう。

「ちょ、ちょっと!!あんた達・・・・まさか探しに行くんじゃ・・・・イタッ!?。」

ミラーは座席から立ち上がり、ペンでルカの脳天を刺す。

「隊長との付き合いは貴女より遥かに長いんです。隊長が自爆で死ぬようなお人ではないことは分かります。

自爆前に脱出、おそらく基地に向かっているでしょうから私達も基地に帰還するだけです。」

「あ、そう。」

雪上を走り基地を目指すホバートラック内を無言が包む。

先に口を開いたのはミラーだった。

「何故・・・何故貴女は捕虜になり続ける事を選んだのですか?」

「う〜ん、幼馴染にも同じ事聞かれたんだけど・・・この部隊の捕虜になってから、何の遠慮も無く自分を出せた、居心地が良かった。それから・・・・・・・・・」

ルカはヘアバンドを胸の前でギュッと握る。

「多分・・・あの人、テスタメントという男を好きになってしまったから・・・・かな。あんたは?」

「私は・・・・・。」

ミラーが何かを言おうとした時、基地からの通信を告げるアラームが鳴った。

 

 

 

 

 

「ふざけているのか?ヒルマン大尉・・・。」

「ふざけちゃいないさ。自分の部下と機体がなくなったから補充してくれ。んでもって女は逃しちまった。」

悪びれた様子も無いヒルマンの態度に怒りをあらわにしたランディは拳銃を取り出そうとホルスターに手を伸ばす。

ヒルマンは素早い動作でそのランディの手を左手で押さえ、右手でランディの首を絞める。

「おいおい、こっちとら軍隊入ってから今まで前線で戦い続けた兵士だぜ?たかが政治将校が拳銃一丁で殺せると思っているのか?」

ヒルマンはにこやかにそう言いながらランディの首を絞めている右手にさらに力を入れる。

「兵員の補充と俺用のMSの支給・・・・OKかい?」

ランディが必死に頷くとヒルマンは手を離し、部屋から出て行く。

部屋の奥から聞えるランディの罵声を背中に受けながらヒルマンは廊下を歩く。

ふと立ち止まりヒルマンは胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

写真に写るのは病院のベットの上で弱弱しく笑う一人の少女。

「待ってろよ・・・ミリア。」

 

 

 

「少尉、もう少しで基地に着きますよ!!!」

スノーモービルを運転する兵が後ろに乗るテスタメントに言う。

「あぁ、わかったよ。」

テスタメントが基地に向かって雪上を歩いていたとき、定例の偵察に出ていた連邦のスノーモービルに拾われたのだ。

しかもそのスノーモービルに乗っていたのは人手不足で借り出された整備要員であり、テスタメントに歯を折られた整備兵であった。

「ふん、お前も散々だな。自分の歯を折った奴を拾うとはよ。」

整備兵は“いえ、そんなことは・・・・。”と苦笑しながら言う。

「一旦止めてくれ。」

整備兵がスノーモービルを止めると、テスタメントは数歩スノーモービルから離れて、いつもつけていたヘアバンドのない額に手を当てながら空を見上げる。

「俺が死ぬのは構わないんだぜ・・・。」

「え・・・・?」

テスタメントの一言に整備兵は驚きの声を上げる。

「俺が死ぬのは別にいいんだ。だがな、自分のミスのせいで大切な仲間が死んじまったらどうする?待っているのは地獄だけだ・・・・。」

“ミス”という言葉で整備兵が思い浮かべたのは自分の整備ミスによる故障。

もし身近の整備兵仲間がパイロットで、自分の整備ミスで命を落としたら・・・そう考えた整備兵は背中に寒気を感じた。

“ふぅ”と溜息をついたテスタメントは再びスノーモービルの後部に跨る。

「らしくないことを言ってしまった・・・・忘れてくれ。行こうか?」

整備兵は再びスノーモービルを走らせる。

「お前、名前はなんていうんだ?」

「自分ですか?自分はセグルであります!!」

「セグルか・・・。新しいMSを受領したらお前を担当の整備兵に指名する。次にミスをしたら歯だけでは済まさないぞ。」

セグルはテスタメントの言葉をブラックジョークか本気か困惑していた。

そして、しっかりと目に焼きつけ・・・覚えてしまっていた。

空を見上げたテスタメントの姿は、深い悲しみを携えていたことを・・・・。

テスタメントを乗せ、セグルの運転するスノーモービルは基地へと向かい加速していったのだった。

 

 

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