GEESE MARCH(仮)

 

「ありがとうございました、これは少ないですが。」

村長と名乗った老人は皮の鎧を纏った男に何かを入れた袋を渡そうとするが、男は剣を納めて苦笑を浮かべる。

「いや、そんなのいいですよ。通りすがりでちょっと手を貸しただけですから。」

剣士の周りには盗賊らしき男達の亡骸が転がっていた。

「これくらいは差し上げないと私どもの気がすみません。ここ数年この村が悩まされた盗賊を壊滅していただいたのですから・・。」

村長は剣士の懐に無理やり袋を入れる。

剣士の周りには老若男女が嬉しそうに集まっていた。

「はぁ・・・ではありがたく頂きます。それでちょっと道を尋ねたいのですが・・・。」

剣士は地図を出し、ある都市国家の名前をだす。

「本当にあの都市国家にいくのですか?今、あの国は・・・・。」

「でもあの国家に僕の目的があるんですよ。」

村長は心配そうな顔をしながらも剣士に道を教えると、剣士はさっそく出発しようとする。

「もう行くのですか!?少しお休みしてからでも・・・。」

「いえ、早く行きたいので・・・では。」

「あの、剣士様!!お名前は!?」

村長の問いかけに、剣士は歩みを止めて振り返る。

「・・・・・ヒースです。」

 

ニルヴァーナ大陸・・・全体として楕円型の大陸であり中央には巨大な湖がある大陸である。

現在のニルヴァーナ大陸は6つの国で成り立っていた。

農業国エルフィア

工業国バストルク

資源王国グラム

神聖皇国エデン

軍事国家グランド

そして・・・・・・唯一の都市国家・・・・、

 

「ここが傭兵国家ルサリアか・・・・・。」

ヒースは目の前に聳え立つ強固な防壁を見あげ笑みを浮かべる。

この大陸で傭兵の需要は高い・・・なぜならばしっかりとした軍隊を持つ国は【軍事国家グランド】と【神聖皇国エデン】しかない。

他の3国は小規模の軍隊は持っているものの、上記の2国に比べるととてもではないが対抗できるものではなかった。

さらに近年、軍事国家グランドは他国に軍を進めているため、まともな軍隊を持たない3国は防備のためにも傭兵を雇い入れるしかなかったのだった。

傭兵国家ルサリアはその名のとおり傭兵が集まる都市国家であり、国家事業として要請に応じて傭兵を派遣する事で利益を得て、国家を維持していた。

「ここから僕の傭兵人生が始まるんだな!・・・・・っとその前に腹ごしらえだ・・・・。」

足取り軽くヒースはルサリアの街へと入っていった。

 

 

 

【水鳥の宿亭】

ヒースは酒場兼宿の中に入るとカウンターに腰を下ろし、銅貨を数枚差し出す。

「マスター、とりあえずコレで腹にたまるモノをください。」

カウンター内にいた髯の濃いマスターは銅貨をエプロンのポケットに入れると素早い動作でサンドイッチを作り、水と一緒にヒースに差し出す。

「見ない顔だな?傭兵志望か?」

「はい。このあとギルドで正式登録しようと思っています。」

マスターはコップを拭きながら頷く。

「それが賢明だな。フリーじゃあどういう扱いをされるか分かったものではない。最近は特にな・・・・。」

 

傭兵といってもルサリア指定のギルドで傭兵登録及び傭兵団を組んでいる者とそれ以外の者がいる。

ギルドで登録した傭兵及び傭兵団はギルドから提示された任務内容から選ぶ形を取る。

もちろん国への仲介料などが発生し報酬は提示されているものの4~5割になってしまう。

それに比べフリーの傭兵は全額もらえる。

一見するならばフリーの方が良いが、多くの傭兵志望のものがギルド所属を希望するのには分けがある。

それは国(ルサリア)による保障である。

国と国との条約という形で、ルサリアは登録した傭兵達の派遣先での労働条件を細かく指定しているのだ。

そのため依頼した国は傭兵達に粗雑な扱いはできず、なおかつフリーの場合、報酬の誤魔化しが横行する

のに対し、登録した傭兵達は確実に報酬がもらえるのだ。

なおかつ登録の最大の利点はバックに国家がいるという信頼を得られるところにあった。

 

ルースがサンドイッチを食べきり、水を飲んでいると酒場の奥から歓声が聞える。

「マスター、この歓声は?」

「あぁ。この酒場の奥には簡易なリングがあってな。腕に自信がある奴は自分の持っている金や宝石などを賭けて戦うのさ。」

「へぇ〜、それは面白そうですね。」

ヒースはコップの中の水を飲み干してそのリングへと歩いていく。

 

するとリング上ではスキンヘッドの男と赤い長髪を三つ網でまとめた女剣士が対決をしていた。

男の得物はモーニングスター、女剣士は・・・・・・、

「すごいなぁ〜、自分の身長と同じ位の大剣を軽々と扱ってる・・・。」

男がモーニングスターの鉄球を叩きつけるが、女剣士はさらさらと避けていく。

そして女剣士は地面に鉄球を叩きつけた反動でバランスを崩した男の顔面に大剣の腹の部分を叩きつける。

男は数メートル吹き飛び、気絶してしまう。

「次!!挑んでくる奴はいないのかしら?」

気絶した男の懐から、男が賭けたであろう宝石の入った袋を取った女剣士がリングの外を見回し叫ぶが、

先ほどの戦いを見てほとんどの者が萎縮してしまっていた。

「はい!!僕がやります!!」

そんな中、ヒースが手を上げてリングの上に立つ。

「何を賭けるの?」

「え?」

「知っているでしょう?このリングでは何かをお互い賭けて戦うの。」

ヒースは慌てて自分の懐を探る。

すると探る手に確かな手ごたえがあり、それを出す。

それはこの都市国家に来る途中に助けた村の村長から貰ったお礼の入った袋であった。

「そういえばコレ、何が入っているんだろう?」

袋の中には1つの透明な石が入っていた。

「なっ!それは“至玉”!!」

女剣士はそれを見て大声を上げる。ギャラリーも驚きの声を上げる。

「え?コレそんなに凄いものなんですか?」

マスターが驚きの表情でリングに駆け寄ってくる。

「そいつはな!!レアの中のレアな鉱物で金貨数千枚で国家間で取引されるくらいの代物だ!!そんなもんどこから!?」

「いや、とある人からお礼で貰ったんだけど。」

困惑の表情を浮かべるヒースの元に女剣士は近寄ってくる。

「貴方、それを賭けなさい!私は貴方の望むものを賭けるわ!」

「あ、え〜と・・・・・近いです。」

いつの間にか女剣士は顔をヒースの顔のすぐ間近まで近づけていた事に気づき、顔を赤くして離れる。

「ごめんなさい、で、どうなの?」

ヒースは“う〜ん”と悩んだ後に思いついたかのように笑う。

「そうですね〜、そんなに価値があるものですと、貴女にこの“至玉”に釣り合うものは持っていませんよね?」

「・・・・そうね・・・。これじゃあ貴方と平等ではないわ。」

「そこで提案です。僕、まだ傭兵登録もしてないんだけど、将来は傭兵団を作ろうと思ってるんです。

なので、僕が勝ったら貴女には強制で将来設立予定の僕の傭兵団で働いてもらいます。如何です?」

再びその場にいた全員が驚きの表情を浮かべる。

女剣士は少し悩んだ後、その提案を了承する。

「つまり“至玉”の価値分あなたの元で働くというわけね。いいわ。では始めましょう。」

女剣士は大剣を構えるとヒースも剣を片手に持つ。

そしてお互いに地面を蹴る。

女剣士は得物に似合わぬ素早い動作で一気に距離を詰め大剣をこれまた素早い動作で振り上げる。

観客やマスターはそのまま大剣を振り下ろせば女剣士の勝ちだと思っていた。

なぜなら、女剣士は全体重と今まで見せた素早い動作を加えて常人なら回避不可能な一撃を振り下ろすだろう。

その衝撃は凄まじいものが予想され、ヒースはたとえ自分の剣で受け止めようとしてもその衝撃に耐えられず折れ、確実に一撃がヒースに入る・・・・はずだった。

「!?」

女剣士は目を見開く。

目の前にいたはずのヒースが消えたのだ。いや、実際はさらに加速していつの間にか女剣士の背後に回っていたのだ。

そしてキースの剣がそっと女剣士の首筋に当てられる。

「勝負有り・・・・ですね。」

「くそっ!」

女剣士は地面に大剣を突き刺し、膝をついた。

 

 

 

「ヴェローナも凄いがお前も凄いな・・・・一瞬消えたように見えたぞ。」

“こいつは奢りだ”とマスターがヒースと女剣士の前にそれぞれビールを置く。

「昔からすばしっこさだけは負けなかったんですよ♪」

そう言ったヒースは隣に座って無愛想にしている女剣士に向き直る。

「え〜とお名前はなんていうんですか?」

「・・・・ヴェローナ。」

「ヴェローナさん、さっきの賭けはノーカウントですので。」

「ふざけないで!!何?同情!?」

女剣士・・・ヴェローナは大声を上げてヒースの胸倉を掴むとヒースは自分の胸倉を掴むヴェローナの手を掴む。

「僕はヴェローナさんの戦いを一回見ていたんですよ?貴女は僕の戦いを見てなかった。

これじゃあ不平等だ。

それに、こんな賭け事で無理やり仲間にしたって、そんな人に戦場で背中は任せられないし任せてもらえないですから。」

「ハッハッハッハ、これは一歩取られたな。」

マスターの豪快な笑いと共にヴェローナは呆れた表情を浮かべる。

「マスターはうるさい・・・。ヒースだっけ?わかったから手を離してくれる?恥ずかしいんだけど。」

「あ、すいません。でも、この対戦が不利な事は分かっていましたよね?なのになんで僕の申し出を受けたんですか?」

「あぁヴェローナはな・・・。」

マスターが何か話そうとするのをヴェローナは手で制す。

「私から話すわ。簡単よ・・・・今は大金が必要なの。

妹が・・・大病を患っていてね・・・治すには高度な医療を行える医者を雇って、高級な薬が必要なの。

わかる?肉親が死に掛けているのになりふり構っていられないでしょう?」

ヴェローナは一気にビールを飲み干して、空のグラスをカウンターに置く。

ヒースは“なるほど”と言いながら立ち上がり、袋をヴェローナの前に置く。

「どうぞ。」

ヴェローナは驚き、声を上げる。

「え?ちょっと待ちなさい!!私は負けたのよ、コレを貰う資格なんて・・・・。」

「僕がコレをどうにかするより、貴女に渡して妹さんのために使ったほうが有効でしょう。では・・・・・。」

マスターが奢りだと言ったのに律儀にビールの代金をカウンターに置き、ヒースは酒場から出て行った。

「勝負は不平等だからノーカウント、一回戦っただけの女の話を受けてあっさり“至玉”を差し出す。

いろいろ凄い奴だな。」

「・・・・・・・・・・・。」

ヴェローナは“至玉”の入った袋を握り締めながらヒースの去っていった酒場の出入り口を見つめていた。

 

 

 

 

【国直営ギルド】

「では登録終了です。ようこそ、傭兵の世界へ。・・・・・・・ふぅ。」

ボーイッシュな髪形をしたギルド受付嬢が溜息をつく。

「お疲れ様、ミーア。最近、傭兵希望者が増えたわね。」

同僚の言葉にミーアはやれやれといった表情を浮かべる。

「今年は農業国エルフィアで不作だったからね〜、もともと農作物を作ってた人が出稼ぎで登録しにくるんだ。

まだまだこの調子は続くわね。」

「ふふふ、まぁそのほうがこの国は潤うからいいけどね。

あ、そろそろ受け付け終了だからドア前のモノかたし始めてくれる?」

「りょ〜かい。」

ミーアはテキパキとした動きで閉店業務をこなし、最後にドアにかけてあるOPENの札を裏返してCL

OSEにしようとした時、背後から声をかけられる。

「あの、すいません。傭兵登録はまだ間に合いますか?」

ミーアは素早く営業スマイルを顔に浮かべてゆっくりと振り返る。

「申し訳ありません。本日の業務は・・・・・。」

そこには剣士姿の青年が立っていた。

ミーアは何故かその青年から目を話す事ができなかった。

ずっと見られていた青年はバツが悪そうに頬をかく。

「あ、あの・・僕の顔に何か付いていますか?」

「い、いえ!!そのようなことは決して・・・・。」

ミーアが我に返って答えると、青年は“良かった”と一言。

そして、ミーアが触れている札を見て納得の表情を浮かべる。

「あぁ、今日はもう終了なんですね。では、また明日に来る事にします。」

青年が踵を返し、去ろうとする。

「あ、あの!!」

「はい、なんでしょうか?」

「傭兵登録ですよね?ま、まだギリギリ間に合いますので中へどうぞ。」

その言葉に青年は子供のような笑顔を浮かべる。

「あ、本当ですか♪よかった〜。」

ミーアはその表情を見て顔が熱くなるのを感じたが、心を落ち着かせて青年を中に案内する。

「では、規約を読んだ上で、この用紙に必要事項の記入をお願いします。」

青年は渡された用紙を一瞥し、必要事項を書き始める。

「お名前お聞きしてもいいですか?」

「へ!?」

青年の用紙に記入をしながらの問いかけに素っ頓狂な声を上げるミーア。

「あ、私のですか?私はミーアと申します。」

「ミーアさんですか。今日はギリギリな時間に来てしまったのに丁寧な対応ありがとうございました。

僕はヒースと言います。」

「いいえ!そんな・・・。コレが仕事ですから・・・・・。」

ヒースが用紙を差し出すとミーアは顔を赤くしながら受け取り・・それでもしっかりと記入内容に不備がないかチェックする。

「問題ないようなので、登録申請は完了です。

傭兵団は結成されますか?それとも他の傭兵団に入団を希望なさいますか?」

ミーアの問いにヒースは苦笑を浮かべる。

「今の所、仲間がいませんので傭兵団の件はどちらも・・・・・。」

 

その時、ギルドのドアが勢いよく開いた・・・・・。

 

 

続く・・。

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