Mit dem roten Mond
序章
「O Freunde,
nicht diese Töne !
sondern laßt uns angenehmere
anstimmen, und freudenvollere〜♪」
少年は廃墟となったベルリンの道の真ん中に立ち、
母国語を使わずにベルリンの空に浮かぶ月を見上げながら少年は第九を歌う。
しかし月を見上げる少年の瞳に光りはなかった・・・少年は盲目であった。
少年の背後にゆっくりと何かが近づいてきた、真っ黒な全てを飲み込むような影だった。
影は少年に手をゆっくりと伸ばす、少年は気づいていない。
しかし一発の銃声と共に影の手は止まり、少年は目が見えないなりに周囲を見回す。
「だれ!?」
廃墟の上に何か・・・・いや違う・・・鎧が立っていた。腕の部分は普通の鎧以上に太くなってい
る事が分かりそれは仕込み軽機関銃であり先ほどの銃声の元であった。
そして銃声と共に発射された銃弾は少年に伸ばした影の腕に直撃していた。
影がゆっくりと鎧の方へ向き直ると鎧は地面を滑るように移動し始め、仕込み軽機関銃を
影に連射しながら廃墟の壁を滑り降りそのまま影へ突っ込んでいく。
影は自分の腕をまるでゴムのように伸ばして鎧を攻撃するが鎧は軽い動きで避けつつ確実
に銃弾を影に叩き込みつつ接近してくる。そして軽機関銃の付いている腕とは逆の腕を影に叩き込む。
そして叩き込んだ腕を抜くと影には焼夷手榴弾が埋め込まれていた。
鎧が埋めたのだ。そして鎧は少年を抱えてその場から一気に離れると同時に影が爆発と共
に凄まじい炎に包まれ・・・・・消滅する。
それを見つめつつ少年を下ろした鎧はその場で初めて声を発した。
『何故危険禁止区域に入った?』
「ココから視る月はとても綺麗だから・・・・・。」
鎧はユックリ冑を取りその素顔を現した。赤い、赤い短髪の女。
女は少年が盲目である事が分かっていたが、“視える”と言った少年の光のない目を見つめた。
ドレスデン・・・影の発生により壊滅した首都ベルリンの代わりに各政府機関、軍機関が移設
された第二の都市と呼べる街である。
その中心部に鎧を纏った騎士が描かれた旗が屋根の上でなびく高層の建物がある。
対影対策庁・・・影の出現と共に出来た新たな部署である。
その最上階・・・・長官室と書かれた部屋・・・その部屋の中にある椅子に座る男はふぅとため息をつく。
「全く・・・・ヴォーダン(神)を着用したまま直接ココに来るなと言ってるだろうが・・イルリヒト(怪火)。
今度から部隊基地で着替えてから来たまえ。」
男の前にはヴォーダンと呼ばれた鎧を着た赤い短髪の女性・・・イルリヒトが立っていた。
「すまない、長官に少々報告する事があってな。この子供をうちの隊で預かる事にした。」
イルリヒトの後ろからイルリヒトの腕をたどって現れる少年。それを見た長官は頭を抱える。
「なぁ・・・・・対影特殊機甲部隊ファフナー(竜)は何時保育所になったんだ?」
最新式兵器ヴォーダン、鎧のように着込むこの兵器は筋力補助、銃火器多数装備、高速回
転ローラーによる高速移動を可能とした装備である。
そしてヴォーダンを装着し影と戦闘を繰り広げることを専門とした部隊は対影特殊機甲部隊ファフナーと呼ばれた。
「何を言っているのだ、長官?ファフナーれっきとした部隊だが。」
「だからなんでそんな餓鬼をただでさえうちの庁の資金を喰いまくる部隊で預からなきゃ
いけないんだ、ん?おい、待て、なぁ〜に人の話無視して退室しようとしてんだYO!!」
イルリヒトは長官の悲痛な叫びを無視して、少年を連れて退室し対影対策庁から出ると少
年を肩に軽々と乗せる。これもヴォーダンの筋力補助のなせる業である。
「今から基地に向かう、しっかりココにつかまれ。」
イルリヒトが少年の手を自分の首に導くと少年は抱きつくような形で掴まる。
それを確認するとイルリヒトはヴォーダンの高速回転ローラーで基地へと移動して行った。
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