第十四話 神の城
「第二艦隊所属巡洋艦【雅】撃沈・・・・第四艦隊と連絡が取れません。」
オペレーターの言葉に、月軌道基地の司令部でハートネット提督は戦闘の様子をスクリー
ンで見ていた目を細めた。
「まだヴァルキュリアは戻らないのかね?」
「もう数分で到着する予定です・・・・。」
ラリルの報告に顔をしかめる。
「その数分が辛い・・・。あぁラリル君、ヴァルキュリアの到着に合わせて例の物を用意しといてくれたまえ。」
「かしこまりました、提督。」
「損害の少ない艦隊を前線に出しなさい、戦線を維持するのよ。」
「おいおい、んなこと言ったって損害の少ない艦隊がもうすでに無ぇ!!」
ソーバル操縦室にトールの怒号が響く。
「蒼いヴァルキュリア(アーリィ)が接近してくるよ!?」
「慣れない指揮なんかやるもんじゃないわ、艦が突出してしまった事に気づかないなんて。
パルスレーザー、迎撃火器すべて起動!!泥沼な撃ちあいになるわよっ!!」
艦隊から突出してしまっていたソーバルの横に敵艦隊から突っ込んできた蒼いヴァルキュリアが付け、
近接射撃用の武装を起動させる。
そして普通では考えられない距離で壮絶な近接射撃戦が開始される。
「第34ブロック炎上!!隔壁閉鎖、外部装甲耐熱温度臨界点に近づいているよ!!
どうするのっ!!」
バルドルの悲痛な報告が操縦室に響いた直後、蒼いヴァルキュリアが突然ソーバルから距離を開ける。
「なんだ?・・・・ま、まさかっ!!??」
トールは目を見開いた・・・メインスクリーンに映し出された蒼いヴァルキュリアは人型になっていた。
そしてその右手には槍状の武器を持っていた。
そして再び一気にブーストを吹かして接近してくる。
「っ!ヴァルキュリアの姉妹機だけあってそれもありなのね・・・・迎撃はっ!?」
「間に合わねぇっ!!」
「万事休す・・・かしらね・・・。」
ミズキの持っていた煙草の灰が床に落ちるのと蒼いヴァルキュリアが槍状の武器を振り下ろすのは同時だった。
『おどろいたな・・ヴァルキュリアそのままだ。』
聞き覚えのある声の通信にミズキは古い煙草を灰皿で消し、新しい煙草に火をつける。
「ったく・・・遅いわよ・・・バカ弟。」
「悪い悪い。んじゃ姉貴は一旦退いてくれ・・・ここは俺たちがやる。」
戦場に到着直後、ヴァルキュリアを人型に変形させ、バークヌーバーで蒼いヴァルキュリアの槍状の武器を受け止めていたのだ。
その後、ブースターでの高速移動をしながらバークヌーバーと槍状の武器で数合ぶつかり合う。
「アーリィ・・・まさか貴女まで。」
レナスがそう呟くと、メインスクリーンに女性の顔が映る。
その顔はレナスとまったくといっていいほど同じ顔であった。
『・・・・・消え去れ。』
一言言ってレナスと瓜二つの女性はスクリーンから消える。
「レナス、あの女性は・・・・?」
「ヴァルキュリア級一番艦・・・固有名称は【アーリィ】。
ラグナロクでは殿(しんがり)を勤め、撃沈してしまったはずでした。」
「ちょっ、その話は後回しだ!!やばそうだぜ!!」
カジの言葉に、ヨウがメインカメラの映し出した映像見ると、アーリィの槍状が光りだしていた。
「レナス!ニーベルゲンの指輪を起動させろ!!」
「了解、マスター。」
ヴァルキュリアが急速でアーリィから離れ、ニーベルゲンの指輪を展開すると同時に、
アーリィの槍状の武器から巨大なエネルギーがヴァルキュリアに放たれる。
「ニーベルゲンの指輪、最大出力だ!!」
そしてエネルギーはニーベルゲンの指輪に直撃し凄まじい光がその場を包み込んだ。
「くぅ!ヴァルキュリアは!?」
ソーバル船内・・・、
ミズキの問いにバルドルは首を横に振る。
「ダメ、レーダーは撹乱が酷すぎて確認できないよ!」
「メインカメラの回復はどうなの?」
「だめだ、こっちも一時的におシャカになってる!」
トールの言葉にミズキは焦りを感じていた。
そんなときだ、ノイズだけを映していたメインモニターにメインカメラの映像が映し出される。
そこにはヴァルキュリアとアーリィの艦影が見え、ミズキは一瞬ホッとしたがすぐに険しい表情に変る。
「ブースターがやられてる・・・・、あれじゃあ推進力がほとんどない。」
人型になっているヴァルキュリアの背部のブースターから煙が上がっていた。
同刻・・・フレイ内部
ナルは迷路のようなフレイ内部の通路をゆっくりと歩みを進めていた。
どこかへナルを誘うように誘導灯が通路を照らしている。
“だいぶ歩いた・・・・・・私はどのあたりを歩いているのだろう。”
そう思っていると一つの扉の前に行き着く。
「!?」
扉にナルがゆっくりと触れると、まるでそれがきっかけのように薄暗かったフレイ内部に光が灯り始める。
そしてゆっくりと扉が開く。
意を決し、扉の奥へと歩を進めるナル。
「これは・・・・・?」
そこは広く丸い空間に凄まじい数のモニターと座席、そして中央には司令官が座るであろう他のより若干高い位置になる座席。
そして座席の前には一人の美麗な青年が微笑みを浮かべ立っていた。
「ようこそ、宇宙要塞フレイ司令室へ。ナル・ラザフォード、我がマスターよ。」
青年は呆然とするナルの側まで歩いてきて、宇宙服の手袋の上からナルの手の甲に口づけをする。
「マスター?一体何を言っているのですか?」
「何を?そのままの意味さ、我がマスター。ちゃんと酸素はある・・・こんな物は外そう。」
混乱の中、何とか言ったナルの言葉を聞き流し、青年はナルの被っていたヘルメットを外す。
「おっと、自己紹介がまだだったね・・・・、僕は宇宙要塞フレイの生体コンピュータ。そのままフレイと呼んでくれて構わないよ。」
フレイと名乗った青年、今度はナルの額にキスをする。すると流石にナルは必殺の左アッパーをフレイの顎に見舞う。
「ではフレイ・・・、お聞きします。何故私を呼び出したのですか?」
アッパーを食らった顎をさすりながらフレイは口を開く。
「我がマスターが僕を目覚めさせたからだ。それ以外の理由は無いよ。
僕を目覚めさせた奴が僕のマスターさ。」
「何故私なのですか?他の人物ではなく・・・。」
フレイは“さぁ”と首を捻り、自分の頭を指でポンポンと叩く。
「僕の大半のデータは封印されているからね。オーディンからヴァルキュリアに移したデ
ータの中に、ぼくのデータの封印解除のパスもあるはずだよ。」
「ではヴァルキュリアと接触してそのデータを引き出せれば全てが分かる?」
「全てとは保障は出来ないけどね。
あぁそうそう・・・もう一人紹介したいのがいるんだけどついて来てくれるかな、我がマスター。」
そしてフレイに連れられ、巨大な格納庫のような場所へと入る。
「こ、これは・・・・。」
そこにあるモノにナルは驚きの表情を浮かべた。
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