妖滅師
「うう、眠ぃ〜。」
カラン、カラン
一人の法衣姿で長髪の男の山道を一定の速度で歩くき、響く下駄の音。
その後ろからは草履の音も聞こえる。背中に傘を二本背負った赤い小袖を着た小柄な少女が追いかけていた。
「なに言ってるのぉ〜こんなペースで行ったら村に着くのは夜になっちゃうよ〜
しかもこの辺は盗賊が・・・・・・・フグッ!!」
男は少女の口を押さえる。
「もう言わなくてもいい、目の前にいるし・・・・。」
男と少女の前に頭巾を被り、ぼろい着物を着て手に刀を持った男達が数人出てくる。
「おうおう、坊主・・・・だよな?まぁいい・・・。金目のモンわたしな!!さもなきゃイタイめみ・・・・へ?」
盗賊の一人のしゃべりの途中でいきなり側頭部を何かで殴られ吹き飛ぶ。
「これを先手必勝って言うんだよな、咲夜?」
盗賊を殴り倒したのは男の持っていた銀色の錫杖だ。少女はやれやれといった表情で言う。
「いや、それはただの不意打ちって言うんだよ、燈楊(とうよう)。
ああ・・・・・、盗賊さんたちもご立腹っぽい・・・・・。」
仲間が殴り飛ばされた事に怒った残りの盗賊たちが一気に襲い掛かってくる。
燈楊は構えをとり叫ぶ。
「そうこなくちゃな!!」
「あう、単に戦いたかっただけなのね・・・・・・。」
咲夜の嘆きも空しく盗賊の一人が燈楊に刀を振り下ろす。
燈楊は錫杖を横にして防ぎ、がら空きになった盗賊の腹に拳をめり込ませ、蹴り飛ばす。
間にいれず突きの構えをしつつ突っ込んできた盗賊の刀を今度は錫杖で叩き落し顔面を殴り倒した。
残った二人の盗賊は力量の差を知り、今度は咲夜に襲い掛かる。
「こまるなぁ〜私まで巻き込まないでよね。」
突っ込んできた盗賊の腹に傘の先で突き、倒す。
「お見事、咲夜。で、村まであとどれくらいだ?」
「まぁ、少しペースを上げれば夜には着くんじゃないかなぁ〜」
「おっし、行くとするか。」
今だ痛みに唸っている盗賊たちを無視し、二人は歩き出した。
燈楊達を見た村の長老は疑いの目を向けた。
「あんたらが妖滅師?本当かね?」
妖滅師・・・妖怪などを封印、又は滅する専門の霊力のある高僧、
もしくは巫女の事である。
「ほらぁ〜燈楊がそんな髪型して下駄なんか履いてるからだよ。」
「違うだろ!!咲夜が子供っぽいからに決まっている!!」
「ま、まぁその銀の錫杖が妖滅師の証、歓迎するよ。」
口論しだした二人を長老は自分の家に促した。
広間に通された燈楊はすぐに口を開いた。
「で、俺らを呼んだ理由は?」
「ああ・・・最近山に山菜の採集などに行った若い衆が消えているんだ・・・。
あの山で・・・・・。」
長老が指を指した先には大きな山・・・・・・。
「あの山は?」
「狐封山。昔、若い男を美女の姿をして狐が誑かしてどこかへ連れて行ってしまったんだ。
ある時ある高僧がその狐を封印。そこから狐を封印した山から狐封山(こふうざん)と呼ばれている。」
燈楊は頭をボリボリと掻き言った。
「なるほど、女狐のお目覚めってわけね・・・・・。」
長老は首を横に捻る。
「と、いうと・・・・・?」
「つまり、その封印が解けてまたその狐の化け物が誘惑して、連れて行っちゃってると。」
「そういうこと・・・・。咲夜みたいな子供じゃできない芸当だろうなぁ〜色気ムンムンだしてよぉ〜・・・・・・
って俺の錫杖で何する気だ!?」
咲夜がユックリ立ち上がり錫杖を大きく振りかぶる。
「う〜ん、燈楊の頭をかち割って見たいと思ってさぁ〜フフフ。」
「わっ!まてまてまてぇ〜〜〜〜!!うぎゃぁ!!」
そんな様子を見て長老は一言ポツリと言った。
「とても心配だ・・・・・・。」
次の日、狐封山を登る二つの足音。
軽快な草履とガララと引きずった下駄・・・・・。
「うぅ、頭いてぇ〜〜〜」
昨夜、長老の開いた宴会で酒を飲みすぎた燈楊は頭を押さえる
先行していた咲夜が袖を揺らしつつ振り替える。
「飲みすぎだよ、昨日の宴会でサァ〜」
「うるせぇなぁ〜」
「うるさいとは何よ〜・・・・・ん?」
山頂に差し掛かる寸前、一気に二人の周りに霧が包み込む・・・・。
「おい、咲夜?」
いつの間にか燈楊の視界から咲夜が消えた。
カサッ
草のすれる音がし、その方向を向くとそこには一人の女性。
『ついて来てくれませんか?』
まず女の口から出た言葉。しかしその言葉を聞いた瞬間、燈楊の体が動かなくなり勝手に女のほうに足が歩みを進める。
「クッ・・・・・・。」
そのまま女の後に着いて行くと洞窟の前に着く。
と同時に女の顔がドンドン変化していき、シッポや狐のらしき耳が現れる。
『私の食事になってもらいましょう・・・・。』
燈楊に振り返った女の顔が完全に狐の顔になっていた。
そして人間ではありえない勢いで襲い掛かってくる。
「わりいが、食われるわけにゃ〜いかねぇな・・・符術、守の法【壁】(へき)!!」
燈楊が懐から符を取り出し投げるとその符が光を放ち、突っ込んできた女狐が見えない壁にぶつかり、阻まれる。
『なぜ我が術の中で動ける?』
狐の頭部から先ほどとは違う掠れた声が漏れる。燈楊はニヤっと笑う。その唇から一筋の血が流れる。
「まぁ、あの手の術は痛みで打ち消せば問題ないんだな。」
『唇を噛んで逃れたのか・・・・・。』
女狐はまた攻撃の構えを取り、そして襲い掛かってくる!!
「攻撃がワンパターンってのも問題あるだろう!!符術、攻の法【爆】っ!!」
燈楊の投げた符が女狐の頭部に張り付き、爆発。
『ギャァァァァァァァ!!』
そして爆発の後、女狐は燃え尽きてなくなった。
「いっちょ上がりってな・・・。」
しかしいくら経っても霧が晴れない。
「まだ何かいるのか?」
すると洞窟から二つの赤い光。何かの眼光だ・・・。それに気づいた燈楊は冷や汗を流す。
「なんかヤバイ状況?」
その時洞窟からものすごい勢いで紫の炎が火炎放射の勢いで飛び出てくる。
「ちっ!!符術、守の法【壁】っ!!」
見えない壁が燈楊を炎から護る・・・が、符が燃え出し・・・壁が消える。
障害がなくなった炎が勢いよく燈楊に襲い掛かる。
「くそっ!!」
その時燈楊の前に立つ一人の影。
「まったく、なんで一人でやろうとするかなァ〜よっと!!」
影の正体は咲夜だった。咲夜は背中に背負っていた傘を取り出し、開く。
その傘にはびっしりと符が張ってあった。
「いつもより回しておりまぁ〜す。」
その傘を回転させ、炎を防ぐ。
「ふぃ〜助かったぜぇ〜」
「安心してないでさっさと攻撃符を投げてよ!!」
「わかってるよ・・・・・符術、攻の法【爆】っ!!」
洞窟に符を投げ入れる、数秒後爆発。それと共に炎も消え、洞窟の入り口が岩で塞がる。
頬を掻きつつ燈楊が傘をたたむ咲夜に話しかける。
「なぁ咲夜・・・・・・。」
「何?」
「紫色の炎を扱う妖怪って何だったかな?」
「紫色の炎ねぇ〜、狐や狸とか変化が使える妖怪は大体使えるけど、やっぱ有名なのは・・・・・・・。」
その時洞窟の入り口を塞いでいた岩が吹き飛び、中から出てきたのは・・・・・
「九尾の大狐・・・・・・・。」
洞窟の中から姿を現したのは九つの尻尾を持つ巨大な狐・・・・・。
「うわぁ〜大妖怪かよ・・・・・・。え〜と大妖怪の対処法は・・・。」
「最低五人以上の妖滅師で対応する事・・・・・って私たち二人しかいないわねぇ、
しかも九尾の狐は大層怒ってらっしゃると来たもの・・・。」
『娘の仇・・・・。』
九尾の狐から漏れた一言に燈楊は冷や汗・・・。
「あっ・・・さっき滅した女狐はコイツの子供だったんだ・・・。」
「それは怒るわね・・・って来た!!」
燈楊と咲夜が飛びのいた瞬間九尾の狐の口からの紫の炎が先ほどまで二人がいた場所を焼き尽くす。
「ちぃ・・・・・符術、攻の法【爆】っ!!」
九尾の体に符が張り付き爆発。
「フッ・・どんなもんだ・・・・・」
「危ない!!」
咲夜が叫ぶのと同時に爆発の煙の中から炎が燈楊に向けて飛んでくる。それを反射的にしゃがんで避ける。
「あ、あっぶねぇ〜〜〜〜〜!!」
燈楊がホッとしたのもつかの間・・また咲夜が叫ぶ・・・・・。
「髪!!燈楊、髪!!!」
「なんだよ咲夜、髪、髪ってさ・・・・って、燃えてるぅ!!」
先ほどの炎が掠ったのか髪の先がプスプスと煙を上げていた。
「あちぃぃぃぃ!!」
燈楊は法衣が汚れるのも気にせずただ熱さに地面を転がりまわる。
「まったく・・・・長髪にしているからだよ・・・。」
『許さぬ・・・・・。』
「ゆるさねぇのはこっちだ、この馬鹿狐!!」
いつの間にか立ち直った燈楊が叫ぶ。
「おらっ!!行くぞ!!」
燈楊が走り出すと九尾がそれに合わせ炎を飛ばしてくる。それをギリギリで避けつつ燈楊は九尾に急接近する。
「このっ!!」
九尾は口を閉じて、九つの尾で接近戦をしようとするが、閉じかけた口に燈楊が錫杖を突っ込み閉じさせない。
「外が丈夫でも腹の中はどうだっ!!」
そして燈楊は錫杖で閉じられない九尾の口の中に大量の符を投げ込む。
『や、やめろ・・・・・!!』
「俺の髪を焼いた罪は重いんだよ!!符術、終の法【滅】っ!!」
『グギャァァァァァァ!!』
九尾の大狐は風船のように膨らみ、爆発した。
「ふぃ〜疲れたぜ・・・・。」
座り込んだ燈楊の下に咲夜が駆けつけてくる
「大丈夫?燈楊。」
「大丈夫じゃねえよ!!髪が燃えたんだぞ!!」
咲夜は呆れた顔でため息をつく。
「髪の先っぽが少し焦げただけでしょうが・・・・。まったく・・・。」
燈楊に肩を貸し、立ち上がらせる。
「助かる・・・じゃあ村に戻るか・・・。」
「うん、そうだね・・・・。」
霧もユックリ晴れてきた、村へ続く下り道も見えてきた。
「にしても最後の決め台詞が『俺の髪を焼いた罪は重いんだよ!!』って言うのは微妙だよ♪」
肩を揺らして笑う咲夜に燈楊は声を上げる。
「俺は髪命だァ!!」
「アハハ、不良坊主の叫び響き渡るってかなぁ〜かっこ悪い。」
「うるせぇ〜!!」
そんな会話をしつつ二人はユックリと山を降りていった・・・。
END