067:歌姫

 

『進め、我が友のために。

歩め、我が国のために。

たとえ腕が使えなくとも・・・。

たとえ足が動かなくても・・・。

友のために、家族のために、国のために。

さぁ行くのだ、忠実なる戦士達よ!!』

私はいつも通り歌います。

これから死に行く戦士のために。

戦場に向かう兵士のために・・・・・・。

私が歌い終わると指揮官が剣を振り上げる。

歌姫の洗礼も受けた。貴殿らは死を恐れない狂戦士となったのだ、

行くぞ、国を護るために!!」

指揮官の声に兵たちは狂喜の歓声を上げる。

それが私には辛かった。

 

「この死神が!!私の息子を返して!!」

町に戻れば戦死した兵の家族に罵声を浴びせられる。

そう、私は美しい歌を歌うだけの歌姫ではないのです。

死の待つ戦場に誘う死神なのです。歌で兵の心を惑わす死を呼ぶ歌姫なのです。

 

ある日、私の居る国が敵対する国によって落ちました。

私は歌を歌う祭壇に残されました、私の歌を聴いた兵士の皆さんは痛みを感じずに

狂戦士として全滅しました。指揮官の皆さんは逃げ出しました。

もう私には歌う事しかできません。

『朝日が昇り

夕日が沈む・・・・。

人が人生もまた同じ。

恐れはしない、そう・・・・、

私は新しい世界へ・・・・・・・・。

新しい世界へ行けるのだから。』

歌う、自分自身に。死を恐れぬように。

「何故そのような歌を歌う?歌姫よ。」

私の居る祭壇に一人の鎧を血で真っ赤に染めた敵兵士が近づいてきて聞いてきました。

「私は歌を歌う事で死神になりました。次の死は私の番だと思いまして。」

「そうか・・・・・。」

敵兵士が剣を私の首に近づけ構える。

私は静かに目を閉じ、斬られるその瞬間を待ちました。

しかしいくら経っても斬られません。

ユックリ目を開けると敵兵士は剣を鞘に収めていました。

「何故?何故斬らないのですか!?」

私の心からの叫びに敵兵士は真っ直ぐに私の瞳を見て言いました。

「それだけの覚悟があるなら、生き抜いて見せよ。

そして貴女は、貴女の歌によって死んでいった兵の命を背負い

そして歌うのだ。兵の霊を慰めるために。」

私の頬に湿り気を感じました。手に取ると自分の涙だと分かりました。

「わかりました、私は歌姫として歌い続けましょう。」

その時敵兵士の後ろに逃げ出したはずのこちらの指揮官が弓を構えていました。

迷わず私は敵兵士の前に飛び出しました。

ドンッという音と共に軽い振動が私を襲いました。

何か湿り気を感じたので自分の左胸に目を向けました。

矢が刺さっていました。体の力が抜けていって、倒れ、

私の意識は薄れていきました。

目の前で敵兵士が私の体を揺らしながら私に叫んでいます。

それも聞こえなくなってきました。

薄れていく意識の中、私は天国に逝こうと地獄に落ちようと

歌を歌い続けようと心に決めました。

私の意識が闇の中に落ちる前に見た敵兵士さんは何故か涙を浮かべていました。

 私は最後に言いました。

「私は歌い続けます・・・・・。」

END

 

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