灰色のプラトーン

灰色のプラトーン

 

 

 

『・・・・・・来ました、飛行音・・・ドップ編隊です。

先行していたドップが迎撃に合って撤退中と言ったところでしょうか?』

「アカギ少尉の腕は確かだからな・・・。」

『・・・・・・・・・・・・あの人はキライです、別小隊でよかったと心底思います。』

「フッ・・・そりが合わないか?まぁいい、ドップが有視界に入るまでの時刻は?」

『あと1分です・・・全部落とせますか?』

「落とすのがこの小隊の任務だ。」

山岳地帯・・・雪化粧した山肌・・・俯く状態で雪原用の迷彩シートでそのほぼ全身を隠しジム

が大口径ライフルを構えていた。

『有視界に入りました・・・・・。』

「あぁ、捉えた。対空砲弾発射する」

ジムは上空を飛ぶドップ編隊にライフル弾を数発発射する。

発射されたライフル弾は直接ドップには当たらず、ドップの飛ぶ高度に達する直前に拡散し散弾を撒き散らす。

高速で飛行し地上から直撃させにくい航空機を撃墜させるための工夫が施された弾が

対空砲弾であった。

多数の散弾に当たったドップは次々と火や煙を上げて墜落していく。

『・・・・墜落音確認・・・・しかし飛行音が止んでいません・・・・・どうしましたか?』

「ジャムった・・・帰還したら整備要員をぶん殴るしかないな。おかげで2機逃がしてしまったよ。」

ライフルの排弾口を見ると空薬莢がつまっている事は明らかだった。

『エルアド曹長がこの先で控えていますので撃ち漏らしは落とすでしょう。

いえ、訂正します、数キロ先で墜落音・・・ドップ編隊壊滅確認。』

「エルアドもいい仕事をするな。さて、引き上げる・・・さっさと穴倉から出て来い、ミラー伍長。」

『イエッサー、テス少尉。』

ジムがシートを除けてジョイントを軋ませつつ雪煙を上げて立ち上がると、それにあわせ

る様にそこから数百メートル離れた洞窟から1台のホバートラックが出てくる。

立ち上がったジムの肩部とホバートラックの装甲には灰色の鷹のエンブレムが描かれていた。

 

 

 

 

整備ドック内に悲鳴が響く・・・女の声ではなく低音な男の歯を折られた悲鳴だ。

「お前の整備不順のせいでジャムって2機取り逃すところだったんだよ、これくらい罰を受けて当然だよな?ん?」

歯が折れたために出た血を手で押さえてうずくまる整備要員の目の前に、そう言いながら

サラサラした肩まで伸びる髪を後ろでしばり、額にヘアバンドをつけた男が整備要員に合わせる様にしゃがみ込む。

そして整備要員の作業帽を取り、髪をまるで玩具の様に引っ張りまわす。

「テス少尉、そろそろ行こう。少佐が報告を待ってる。」

「あぁ、そうしよう。少佐の話は長いしな。」

ジムの脚部にもたれかかっていた眼鏡をかけた青年に言われた男・・・いや、テスタメント少

尉は整備要員の髪を放し、整備ドックの出口へむかう。

すると何処にいたのか、いつの間にか、真っ赤な髪を腰まで伸ばした無表情な女性が付き

添うようにテスタメントのすぐ後ろを歩く。

眼鏡をかけた青年はゆっくり歩き、痛みのあまりまだしゃがみ込んでいる整備要員の耳元満面の笑みでささやいた。

「前歯だけで済んでよかったね、だけど次ミスったら・・・・・・死ぬよ?

っていうか僕が殺す。言っとくけど僕に階級がどうのこうのどか通用しないからよろしく。」

眼鏡をかけた青年・・・エルアド曹長も整備ドックを出て行く。

そして完全に3人がいなくなった後、歯を折られた整備要員を手当てしながら、その一部

始終を見ていた整備要員仲間は毛嫌いするように呟いた。

「禿鷹どもめ・・・・・。」

 

 

上級仕官用執務室・・・・・、

「では問題なく全機撃墜か。」

机の上の書類に目を通しつつ少佐の階級章をつけた初老の男が呟く。

「あぁ、問題はない。この基地の整備要員には問題があるようだから少し修正したがな。」

「ふん、勝手にしろ。私に迷惑だけかけなければそれで良い。」

テスタメントの嫌味もさらりと流した少佐は机の端にあった資料の束をテスタメントに投げる。

「次の仕事だ・・・対象は第05小隊・・・・容疑はスパイおよび敵前逃亡。

処理内容は第05小隊の全滅及び第05小隊の逃亡先であるジオン軍の補給基地の破壊。

詳細は資料に目を通せ、以上。」

「了解した・・ミラー伍長、エルアド、行くぞ。」

少佐は“あぁそれから”と話を付け加える。

「501補給基地方面が今後騒がしくなりそうだが・・・しばらくは手を出すな。

一応言っておくぞ、なんせお前らは死肉にすぐに飛びつくからな・・・・。」

少佐の言葉にニヤついたテスタメントが部屋を退室すると続いてエルアドが退出する。

最後にミラーと呼ばれた伍長の階級章を付けた赤い長髪の女性が退出しようとすると少佐

が資料から目線を外しミラーを見る。

「ミラー伍長。」

「何か御用ですか?」

「いや、な、アジア戦線の方である高級将校ぜひ君を部下にしたいと言ってきているんだがどうかね?」

そう言われたミラーだが相変わらず表情を変えず、感情を含まない声で言い放った。

「お断りします。この部隊から異動する気はありませんので。」

そしてミラーが退出すると少佐はミラーの返答を元々知っていたかのように、

興味がなかったかのように視線を書類に戻した。

 

 

 

 

ジオン軍臨時補給基地

臨時とはいえ基地とは呼べないその場所は輸送機とろくに整備できていない少数のザクを

鉄条網で囲んだだけの場所であった。

「ふぅ・・・・何時までこんな生活が続くのかしら・・・まったく。」

パイロットだろうか?作業服を着た女性が1機のザクを整備しつつ溜息をついた。

「宇宙帰還の本隊には置いて行かれるやら、資材も何もかもが不足やら・・・おかげで私のザ

クのメインカメラは連邦のMSのを使うはめになっちゃうやら・・・散々だわ。」

そう、女性の整備していたザクの頭部はジムの頭部を無理やり代用した不恰好な機体とな

ってしまっていたのだ。しかも廃棄されていた機体のものを使ったらしく決して新品同様とは言えない物であった。

「まぁそうぼやくな・・・・ほれ、コーヒー。」

女性の同僚だろう整備兵が女性にコーヒーの入ったカップを渡すと女性は“ありがとう”

とそれを受け取る。

「そういえばさっきジムが2機が基地司令のいる輸送機に入っていくのを見たんだけど

もしかして私達、降伏でもするの?」

女性がそういうと整備兵は“さぁ?”と首を捻る。

「なんか聞いた話じゃあ連邦のMS一個小隊をこっちに寝返らせたんだってさ、

まぁうちの基地に現在優勢の連邦からわざわざ寝返らせるような餌があるとは思えないけどなぁ。」

「フフフ、確かにそうね。」

整備兵の言葉に女性が苦笑を浮かべた瞬間、寝返らせたと言う連邦のジム小隊が格納された輸送機内部から凄まじい銃声が聞えた。

女性は整備兵とお互い顔を見合わせた後、ザクのコクピット内から携帯用の小銃を取り出し輸送機へと走り出した。

 

 

 

第1話

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