灰色のプラトーン
1.開く時
雪原を1台のホバートラックとそれを守るように2機のMSが進んでいた。
1機は通常タイプのジム(隊長機)、もう1機は右肩にキャノン砲を備えた中距離支援用M
Sジム・キャノンであった。ゆっくりと前進していた1台と2機だがある地点まで着くと進行を止める。
『テス少尉、ここより私は情報系の後方支援を、エルアド曹長は砲撃支援に回ります。よろしいですね?』
「ああ、問題ない。」
ホバートラックに乗っているミラーの通信にジムに搭乗していたテスタメントはそう言い首を捻りボキッと鳴らす。
『でも1機で大丈夫?数発キャノン砲撃ったら僕も援護に向かおうか?』
「いや、いらんよ。たかがザク数機にやられはしない。まぁ第五小隊のジムを砲撃で潰してもらう事が前提だからな・・・・、頼むぞエルアド。」
『了解。それじゃあ今回の作戦を再確に・・・・・。』
『ちょっと待ってください!!』
エルアドの言葉をミラーが遮ると、テスタメントは反射的にジムの全ての機能を立ち上げ臨戦態勢をとる。
「敵か?」
『はい・・・・MS・・・数は2・・・・・・データ照合、完了・・・第05小隊のジムです。何かを追跡してる?』
「正確に報告しろ、何が追われている?」
『すいません・・・・目視で確認します・・・・・人です・・・ジオンのパイロットスーツを着た女性が追われています!!』
『はぁ?なんでジオンに寝返ったはずの第05小隊がジオンのパイロットを追跡してるわけ?』
テスタメントは“ふん”と鼻を鳴らし、少し嬉しそうにジムを前進させる。
「その追われている女に聞けばいい・・・それに第05小隊は俺達の殲滅目標・・・丁度いい。
予定変更だ、エルアドもついて来い。ミラー伍長は俺たちに追いつかない程度について来て女を捕縛しろ。」
『『了解。』』
「さぁ、ショータイムだ・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・。」
ジオンのパイロットスーツを着た女性がセミロングのウェーブヘアをなびかせながら雪原を走る。
女性が走りながら後ろを振り返ると後ろから2機のジムが迫って来るのが見えた。
“こんな所で死にたくない・・・ううん、死ねない!!”
そう思っていた彼女のすぐ横をジムの頭部バルカンが通り過ぎ、それに驚いた女性は雪に足を取
られ転んでしまう。
「・・・・・痛っ!」
足を挫いてしまったのか女性は立ち上がれなかった。
追跡していたジムはゆっくりと女性に近づいてくる。
そんな時だった、女性の上を大型の砲弾が通り過ぎ、追ってきたジムの目の前に着弾する。
05小隊のジムは盾を構えつつとっさに後ろに飛んだためダメージを受けていなかった。
女性が慌てて砲弾の飛んできた方向を見るとそこには灰色の鷹のエンブレムが描かれた2機のジム。
1機は通常のジムらしいがもう1機は砲撃戦仕様らしい。先ほどの砲撃はこの砲撃仕様のジムかららしい。
追跡してきた第05小隊のジムは灰色の鷹のエンブレムのジムの攻撃を受けるとアッサリと撤退していく。
砲撃仕様が追跡しようとするが通常型のジムが静止するように右腕部で制す。
女性はゆっくりと立ち上がる。
腰から銃を取り出そうとするが、震えから銃を取り出せないジオンの女性パイロット。
「なんで取り出せないの!!まだ、死ねないのに!!」
その時だ、一台のホバートラックが走ってきて女性パイロットの目の前に止まる。
そしてホバートラックから銃を構えて連邦の軍服を着たロングの赤髪の女性が出てきた。
「動かないでください、動いたら射殺します。」
「分かったわよ・・・・・せっかく丁度銃が取り出せたのにね・・・・。」
ジオンの女性は銃を投げ捨てて両手を上げる。
『随分素直な奴だな・・・・。』
その声と共にジムのコクピットが開きパイロットスーツを着た男が出てきた。
「全力疾走の後で悪いがいろいろと喋ってもらう。いいな?」
女性パイロットに近づきながらヘルメットを外した男の額にはヘアバンドが巻かれている。
「・・・・・・・・。」
「その無言、YESと取らせてもらう。さて、ここじゃあ寒い。ホバートラックの中で話そうか?」
そう言った男はニヤリと口元に残虐な笑みを浮かべた。
ジオンの女性パイロットはその男の瞳に・・・何か深い悲しみを含んでいる事に気づいた。
しかし自分がその瞳に惹かれていた事に気づくのは少し先の話しとなる。
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