灰色のプラトーン
2.真実の在処
ジオンの女性パイロットをホバートラック内の座席に座らせると、テスタメントはインスタント
コーヒーを女性パイロットに渡す。
女性パイロットの後ろでは銃口を女性パイロットに向けたミラーが立っている。
「じゃあ、まず俺達の自己紹介をしておこうか?
俺達は連邦軍情報部所属掃討部隊【ナイトホーク】。まぁ他の奴らからは【禿鷹】なんて呼ばれてるがな。
俺は部隊長のテスタメント少尉・・・・お前の後ろで銃を突きつけている無愛想な女がミラー伍長だ。
で、外でMSに乗って警戒しているのがエルアド曹長。お前の名前は?」
「・・・・・・・・・・。」
テスタメントの問いに女性パイロットが頑なに口を開かないでいるとミラーが銃口をピッタリと女性パイロットの頭部に突きつける。
「はぁ〜、分かったわよ。私の名前はルカ・ワカバ。階級は中尉、所属はジオン軍・・・・・
あぁ〜止め止め。どうせ所属の基地はもう存在しないんだから言った所で無駄よ。」
「ふざけるのはこの辺で止めておかないと本当に射殺しますよ?」
「ふざけてなんかいないわよ!!そもそも私の所属基地潰したのは連邦(あんた達)の潜入部隊じゃないの!!」
女性パイロット・・・・ルカの言葉にテスタメントは眉を潜める。
「潜入部隊?まさかお前を追跡してきた第05小隊のことか?」
「05小隊?・・・あぁ、そういえばジムの肩部に数字が描かれていたわ。
そいつらがジオンに寝返るフリをして基地内に潜入してそこで大暴れして・・・みんな殺されて・・・・。
ねぇ、私も1つ質問していいかしら?」
「かまわない、何だ?」
ルカはコーヒーをすすり、ユックリと視線をテスタメントに向ける。
「なんであんたたちの部隊は味方の潜入部隊・・・じゃなかった、05小隊を攻撃したわけ?」
テスタメントは“クックック”と笑い、口を開く。
「上からの指令は“第05小隊の全滅”と“その第05小隊が寝返り、居座る基地を壊滅”だからだ。
まぁお前の言葉から推測して後者の指令は遂行しなくてもよさそうだな。」
「どういうことです?」
「ミラー伍長も意外と鈍いんだな。
今こいつが言っただろ?第05小隊が寝返るふりをして自分の基地を壊滅させたと。
つまり俺たちが壊滅させる予定だった基地は先に第05小隊が片付けてくれたわけだ。」
“なるほど”とミラーが納得するように頷くと、テスタメントはミラーに銃を下ろすように言い、ルカに向き直る。
「さて、第05小隊が俺達との接触後に何処に逃げたかお前が知っているわけもないだろうし、
実際俺達はお前を捕らえておく理由も必要もない。しかもいちいち条約に乗っ取って捕虜にするのもめんどうだ。
お前はどうしたい?死にたいんだったら殺してやるし、逃げたいんだったら逃がしてやる、もちろん後ろから
撃つなんて事はしないから安心しろ。どうする?」
「ねぇ・・・あんた達は第05小隊を全滅させるのが任務なのよね?」
“何度も聞くな”とテスタメントが言うとルカは近くにあったペンを持ち、指先でクルクルと回しながら何かを考え、
考え終わるとペンをあった場所に置き直す。
「じゃあさ、私も一緒に行動していい?仲間の仇を討ちたいの。」
ルカがそう言うとミラーはルカの置いたペンを持ち、クイック式のペンのペン先を出し、
ルカの頭をヘッドロックな形で固定し、無表情で脳天にペンを何度も何度も血が出ない程度に指しまくる。
「貴女は何を言っているんですか?ふざけてるんですか?ふざけてるんですね?」
「イタタタッ!!ふ、ふざけてなんかないわよ!!だってこの部隊は05小隊を追ってる
んでしょ!?だったら一番05小隊にぶつかる可能性が高いわけじゃない!!
ねぇ、いいでしょ?一緒に行動する事を認めてくれるんだったらもう一つ情報上げるからさ!!」
「貴女は現在の自分の状況を理解してないようですね?今、貴女は敵軍に捕獲されているんですよ。
要するに今は尋問中、貴女に取引する権利は完全にありません。」
「痛い!!余計にペン先をめり込ませないで!!」
「その辺にしておけ、ミラー伍長。さて、その情報ってのはどんなんだ?
その内容によっては考えてやってもいい。」
ミラーが離れるとルカは頭を摩りながら溜息をつく。
「ったく・・・私がザクを整備していたときに指令所を兼務している輸送機から銃声が聞えてね・・・・、
仲間と一緒に駆けつけたら会議室で物音がして、開いていたドアの隙間から覗き込んでみたら
上級将校が連邦のパイロットスーツを着た奴に銃で殺されていたのよ・・・・
でもね、一人だけ銃口も突きつけられずむしろニヤついていたジオン士官がいたの。
名前はランディ・スー、階級は中佐。情報仕官のひ弱な奴なんだけど、性格が捻くれててね、基地の誰にも好かれてなかった。
そのランディが連邦のパイロットと何かを話していたの、よくは聞き取れなかったんだけ
ど“I’sはどうなんだ”とかなんとか言ってた。」
「”I’s”?・・・・・引っかかるな・・・、よし、壊滅しているだろうが予定通り基地に進軍して偵察してみるとしよう。
ミラー伍長、この辺はミノフスキー粒子が濃いからな・・・基地に帰ったら”I’s”というキーワ
ード関して色々探ってみてくれ。多少違法な事をしても構わん。」
「了解、多少違法な方法も使いつつやってみます。」
「ちょっ、ちょっと私はどうするのよ!!さっきの約束は!?」
テスタメントは腰から銃を取り出し、ルカの額に突きつける。
「うるさいな。今回の偵察は俺のジムに一緒に乗せてやるよ・・・きついがな。
だが、ウダウダ喋られると五月蝿くて迷惑だ・・・これ以上無駄口喋る気があるんだったら
ココで殺していく・・・・だから・・・・・黙ってろ、ルカ・ワカバ中尉殿。」
「分かったわよ・・・。」
テスタメントは銃をしまい、ヘルメットをルカに投げて、ホバートラックから出て行く。
ルカもヘルメットを被り慌ててテスタメントの後を追う。
そんな光景をミラーはいつも変わらない感情のない表情で見つめていた。
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