灰色のプラトーン

灰色のプラトーン

 

5.CROSS FIRE

 

「・・・・やってくれる・・・・自爆とはな・・・・。」

何かが焼け焦げる臭いを鼻に感じながらヒルマンはコクピットのハッチを開ける。

ヒルマンの乗るジムはシールドを地面に突き立てて、その影に隠れるように片膝をついていた。

周りには全壊した、おそらくパイロットは生きていないだろうジムの残骸が広がる。

とっさにシールドでコクピットを守ったためヒルマンは難を逃れたのだが、

ヒルマンのジム自体も様々な場所が破損しており動かせる状態ではなかった。

「久々の基地までの強行軍か・・・・・・。ちっ!ハイエナめ・・・。」

雪原に降り立ったヒルマンはゆっくりと歩き出し、しばらくして雪の降り積もる森の中に入る。

その時だ、ヒルマンの頬から血が流れる・・・・何かが掠った。

「ヒュウ!・・・まさか生きているとはな・・・アグレッサー部隊のハイエナよ。」

ヒルマンの視線の先には様々な場所が焼け焦げ、切れたパイロットスーツを着た連邦兵が銃口をヒルマンへと向けていた。

「テスタメントだ、裏切り者。」

「ヒルマンだよ!俺の名はな!!」

ヒルマンはそう言って太い幹を持つ木の陰に飛び込む。

幹にテスタメントが放つ銃弾が何発もめり込んでいく中、ヒルマンは懐から銃を取り出し

幹から半身乗り出して反撃する。

するとテスタメントも近くにあった幹に隠れ、お互い撃ちあいながらの硬直状態となる。

「何故連邦を裏切った!?地球上はほぼ連邦が主導権を握っている今、ジオンに・・・・。」

「・・・・・まぁ連邦には飽きたとでも理解しといてくれ。」

「ふん、短絡的だな!」

テスタメントとヒルマンは同時に木の幹から飛び出した。

 

 

 

 

ルカはザクコクピット内にある端末を操作していた。

「何をしているんだ!ルカ!?」

「何って潜伏に適した場所の検索をしているの!彼と彼の部隊が一時的に退避場所にする場所を探して私もそこに行く!」

その言葉にシュウが絶句する、そしてある程度目星をつけたルカはコクピットから出ようとする。

「ま、待つんだルカ!!君はジオンのパイロットだろう!?何故連邦の部隊にそんなに容れ込むんだ!?

連邦の汚いやり方はルカも知っているだろう!!」

ルカはシュウに肩を掴まれると少し間を置いて口を開く。

「前の基地でシュウ以外で友達っていうか戦友・・・・出来たんだ。みんな優しく厳しく接してくれた。

彼らの仇は取りたい!!それだけならシュウやシュウの部下に協力してもらえれば可能だね。」

「じゃあ・・・・。」

シュウが言おうとする事をルカは首を横に振って遮る。

「自然体でいられるんだよね〜、あそこにいるとさ。」

ルカはテスタメントから貰ったヘアバンドをテスタメントと同じように付ける。

「良い軍人、良い戦友・・・・みんなにそう思われたくて、嫌われたく無くて無理しちゃうんだよね〜、シュウも昔言ってくれた私の悪い癖。

でもね、捕虜としてあの部隊の中に居た数日間・・・私は充実してた。

嫌われたくない好かれたい・・そんな事も考えずにありのままの自分をぶつけられたの・・・。」

「あの連邦の部隊に対しての気持ちは分かった、だけどルカが戻りたがる理由はそれだけじゃないだろ!?

あの男・・・お前にヘアバンドを渡して特攻していったあの連邦のパイロット・・・・ルカはあいつのことが・・・・!」

「久しぶりにシュウに会えて良かった!!じゃあね!!」

ルカがコクピットを開けて、地上へと降り立ちまだ雪の積もる森の中へと消えていく。

そんな姿を見ながらシュウは叫んだ。

「俺は認めない!!あの男も連邦も!!」

 

 

 

 

カチン

 

 

「お互い・・・・。」

「弾切れのようだな。」

テスタメントとヒルマンはお互い相手の額に突きつけた銃を離し、ホルスターにしまう。

「かといってお互い基地に戻る体力を残しながら相手を殺す術は無い。決着は次回に持ち越しだな。」

ヒルマンがそう言うとテスタメントは“ふん”と鼻を鳴らしヒルマンに背を向け、歩き出す。

「寝返った俺が言うのもなんだが、アンタに連邦への忠誠は見られない。何故連邦の・・・アグレッサーにいる?」

ヒルマンの問いにテスタメントは歩みを一時的に止めニヤリと笑った。

「ずっと昔に生きる価値の無い男を庇って死んだ女の怨念が俺を地獄に招待するのを待っているだけさ・・・・。」

 

 

数時間後〜退避ポイント〜

 

「カモフラージュ終わったよ、伍長。・・・で、少尉の反応は?」

エルアド曹長がホバートラックに乗り込んでくる。

「ありません・・・・、この状況ですから無線も使用できません。」

ミラーはスクリーンを見つめ、キーボードを打ちつつエルアドに伝える。

「あの爆発は確実にMSの爆発です・・・・敵とテス少尉・・どちらのMSの確率が高いか考えると・・・。」

ミラーがそこまで言うとエルアドはミラーの胸倉を掴み、椅子から立ち上がらせる。

「少尉が死んだとでもいいたいのかい?ミラー伍長・・・。」

「私はそのような事は言ってません。もちろんテス少尉は生存していると確信しています。放して頂けませんか?エルアド・ガリーラ曹長。」

ミラーの静かな言葉に舌打ちをしつつエルアドが手を離すと、ミラーは先ほどと同じようにスクリーンへと向かい作業に没頭する。

エルアドはミラーの視界に入らない場所で自分の手を見ていた。

その手は震えていた。

「くそっ・・・あの殺気はいったい。」

“テス少尉は生存していると確信しています。放して頂けませんか?エルアド・ガリーラ曹長。”

こう言った時のミラーの言葉には歴戦のパイロットでも震えが繰るような凄まじい殺気が込められていた。

それはミラーが本気で怒った事の証であり、そしてテスタメントに対する“ある感情”の表れであった。

その時、ホバートラック内に警戒音が鳴り響く。

「周囲に設置していたモーションセンサーに感あり・・・エルアド曹長。」

「了解・・・ちょっくら行ってくるよ・・・・。」

アサルトライフルを抱えてエルアドはホバートラックから外に出る。

そして木の枝や雪でカモフラージュした自分の愛機を通り抜ける。

すると森の奥から葉のすれる音と、雪を踏みしめて走ってくる足音が聞えてくる。

エルアドはアサルトライフルの安全装置を外し、木の陰に隠れる。

そして足音の主がアサルトライフルの射程内に入ったと同時にエルアドは木の陰から飛び出した。

 

 

第6話

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