第一幕・・・影を狩るものたち
第一章
「百志さぁ〜ん、いちいち車なんか借りなくても良いんじゃないの?しかも防弾車なんて高いでしょ。」
ボロボロで補修されていない道路を4WDが走る。永樹の言葉に“ふん”百志は口を開く。
「あぁ?いいんだよ、この仕事を完遂すりゃ〜ガッポリ金が入るんだからな♪」
「百志!!てめぇ報酬を独り占めする気じゃないだろうな!!??」
運転する紅実がサイドミラーで後部座席にいる百志を睨み付けると蒼実が苦笑する。
「大丈夫ですよ、紅実姉様。百志さん達はそんなこといたしません。万が一そんな事したら私が・・・・・ね?お二人さん。」
『は、はい蒼実さん・・・・・。』
助手席で蒼実の微笑みに殺気が混じると、後部座席に居た百志と永樹が青い顔で凍りつく。
「で、今回の回収品はなんだ?」
紅実の言葉に永樹が手元にある書類に目を通す。
「え〜と、とりあえず今回の依頼主は個人資産家だね。なんか東京から移転するときに紛
失した壷らしいけど・・・・・。」
ゴーストハンターの大半は政府などからの正式な狩りの依頼の他に、東京から移転、引越
しした際紛失したものを回収する“回収屋”の仕事を副業にしていた。
「ちゃっちゃと見つけねぇ〜と他の同業者に取られちまうからな。」
百志のその言葉に全員がうなずく。東京は大地震以来、国は東京をごとんど放棄と言って
いい扱いをしているため法など存在せず“影”以外にも普通に殺人などの犯罪が置き、ま
た犯罪者の溜り所になっていた。
「それもこんな場所を堂々と車で走ってればいい的に・・・うわっ!!!!」
いきなり車が左右にスピンし始める。
「紅実!!てめぇ〜なんて運転をっ!!」
「うっせぇ!!狙撃でタイヤ撃ち抜かれたんだよ、黙って何かにつかまっとけ!!」
「あらあら〜。」
スピンする車・・・・顔を引きつらせている運転席と後部座席の三人を余所目に
微笑を崩さない蒼実であった。
「うっぷ・・・・百志さん・・・・俺・・吐きそう・・・・。」
「うぜぇ!!俺の服に吐くんじゃねぇぞ!!吐いたら殺すからな!!!」
「ったく、えらい目にあったな、蒼実。」
「あら、そうですか?私はくるくる回って面白かったですよ♪」
横転した車の横、なんとか脱出した4人が立っていると突然手榴弾が投げ込まれる。
四人は急いで散開するとその直後に手榴弾が爆発しその場が土煙に包まれた。
数時間後・・・
「あら・・・困りましたね。」
東京の廃墟・・・・ボロボロになった道路を、風景とは合わない着物を着て歩く蒼実は
そう呟いた。手榴弾による爆発と土煙で紅実や百志達と逸れてしまったのだった。
「私は道知っているのですが・・・・・紅実姉様は方向音痴で・・・心配ですねぇ。」
頬に手を当て心配そうにする蒼実の周りを十数人の男たちが取り囲む。
「おう、女がこんな所で何やってるんだ?」
どうやら犯罪者達らしい、手にはトカレフなど入手が安易な銃器や刃物が握られていた。
「ちょっと探し物をしてまして・・・・。で、何か私に御用ですか?」
「そりゃぁ〜なぁ〜、身包みはがっ・あ?」
「もう結構です。さようなら。」
喋っていた男の話しをむりやり中断し去ろうとする蒼実。しかし話を中断された男は
蒼実を止めることはできなかった。なぜなら・・・頭部に“針”が突き刺さり絶命していたからだ。
「なっ!?このっ!!」
蒼実の左右に居た男達が銃を蒼実に向けようとしたその時、その男達も額に“針”が
突き刺さり絶命した。残った男達は恐れをなして逃げていった。
「逃げちゃいけませんよ、男なら・・・。」
蒼実がそう呟いた瞬間、逃げ出した男達の目の前に透明な壁が現れ進路を塞ぐ。
「私・・・水を操れるんです。覚悟はよろしいですか?」
数分後、複数の屍の中・・・蒼実が平然と無傷で立っていた。
蒼実は心配そうに呟いた。
「さてと・・・紅実姉様を探さないと・・・・・周りの人が大変です。」
「だぁぁぁぁ!!!ここはどこだぁ!!」
そんな大声とともに廃墟とはいえしっかり残っていた一軒家が一気に崩れ去る。
その瓦礫の上に立つのは赤い髪が特徴的な女性・・・・紅実だった。
蒼実の心配したとおり見事に道に迷っていた。
「ったく・・・・蒼実はどこ行ったんだ?」
『死ねっ!』
「ヒュウッ♪」
左右からサバイバルナイフで斬りかかっていた男達だが笑いながら紅実は後ろに飛び退き
避ける。そして舌を出し、中指を立てて挑発する。襲ってきた男たちは表情を変えず
再びナイフを振りかざすと紅実は指二本でナイフを受け止める。
「ふ〜ん、同業者潰しかい?小さいな!!」
男達の右腕にある自分と同じ腕章を見た紅実は指の力だけでナイフを真っ二つに折る。
するとさすがに襲撃してきた男達は驚きの表情をする。
「スキだらけなんだよっ!!」
紅実は男の一人の脇腹に拳をめり込ませ、振り向きざまに回し蹴りでもう一人の男の頭部
を蹴り倒す。男たちは倒れた直後に凄まじい炎に包まれた。
「燃えな!!さて、と・・んじゃまた真っ直ぐ行くかな。ヨッと!!」
紅実は真っ直ぐ歩き目の前にある障害物は片っ端から破壊して進んでいった。
「やれやれ・・・・この有様はどうしたもんだ?なぁ永樹。」
「とりあえず目の前に居る不思議少女に聞いてみるしかないんじゃないかな。」
依頼の品があると思われる屋敷に入るとそこには百志達の同業者が鉄骨に貫かれ絶命している。
そしてその屍の中にボーイッシュな髪型に右目を包帯で隠しているのが特徴的な少女が
あるものを抱えて立っていた。
「しかも依頼品の壷持ってるときたもんだ・・・おい、穣ちゃんその壷渡・・。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
百志が一歩踏み出した瞬間、少女は悲鳴を上げる。すると近くにあった鉄筋がいきなり飛
び百志の頬を掠める。
「なかなかスリリングだね・・・・・アハハハ。」
「驚いている暇があったらのガキ追いかけるぞ!!」
いつの間にか走り去ってしまった少女を追いかけるために百志がはしりだすと永樹も走りだした。
「あのガキいったいなんなんだ?俺たちと同じ能力者か?」
「そうみたいだね・・・・あの子には悪いけど・・・・ごめんねっ!」
永樹が指をパチンと鳴らすと走っていた少女の足元をカマイタチが通り抜け、軽い傷を与え、転倒させる。
すると複数の鉄筋が飛んでくる・・・・・百志はグローブをはめて鉄筋をすべて叩き落す。
百志はそのまま素早く少女に接近し、手刀を首に落として気絶させた。
「やれやれ・・・・ったくいったいどうなってんだよ。」
百志は右肩に少女の体を背負い、左手で壷を持ちながら呟いた。