第一幕・・・影を狩るものたち

 

第二章

 

 

 

「なんでその女の子が依頼の壷を大事に守ってたんだろうね?

しかも異能者とはねぇ〜〜〜〜鉄を操る能力かな?」

永樹が気絶している少女を見ながらつぶやくが百志はじっと壷を見つめ、時折軽く壷を叩

いたりして音を聞いたりしていた。

「ねぇ、百志さん。聞いているの?」

「ん、ああ。聞いているさ。おそらく鉄と言うより“磁力”だろうな。まぁ詳しいことは

起きたら聞いてみりゃ良い。その時にはこのガキも冷静になっているだろ?」

その言葉が合図のように右目を包帯を巻いた少女が目を覚まし警戒するように百志達と距

離を取る。

「あっ!!」

驚きの声を上げた少女の目線の先には百志の手の中にある壷があった。

「まぁそう警戒すんな。別に取って食おうってわけじゃない。なんでこの壷を守ってるの

か聞きたいだけだ。正当な理由だったら返してやるよ、この壷。」

苦笑しながら百志は言うと少女はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開く。

「祖父ち約束した・・・壷を守ると。」

「名前は?」

「・・・・・・・・・・・ゼクス。」

「ゼクス?なんか男の名前みたいだねぇ〜」

永樹がそう言うと百志はため息をつき、永樹の頭を小突く。

「ゼクス(sechs)はドイツ語で“6”って意味だ。それくらい知っとけ。」

百志は壷をゼクスという名の少女に差し出す。

「え、百志さん!?返しちゃうの?依頼品ジャン!!」

「このガキはこのガキの祖父さんと約束したんだろ?守らせてやらなくてどうするんだ?」

少女は本当に返してもらえるとは思っていなかったらしく少し驚いた表情を浮かべながら

百志から壷を受け取る。

「でもな、ここにいると他の同業者が来るかもしれねぇ〜から、さっさと他の場所に移動

するんだな。行くぞ永樹。」

「はぁ〜い・・・・タダ働きかぁ〜しかも車壊しちゃった!?やばいよぉ!!」

「だぁぁ!!ウジウジすんじゃねぇ!!本業でかせぎゃいいんだよ!!」

「待って!!・・・・・・・・・・・ッ!?」

何を思ったのか、その場を去ろうとする百志達を追いかけようとしたゼクスだが

いきなり包帯を巻いた右目を押さえて膝を着き苦痛の顔を浮かべる。

その様子に気づき振り返った百志達にゼクスは叫んだ。

「危ない・・・・奴らが来る!」

「ちっ!!影どもか!?」

百志と永樹はそれぞれ銃を持ちまわりを見回すと多数の小型の“影”がゼクスや百志達を囲んでいた。

「数が多い!!これは骨が折れるよ、百志さん!!」

「うっせぇ!!たったと戦闘開始だ!」

百志は銃を影へと向け撃ち、撃たれた影はどんどん消滅していく。

大型の影などは異能以外の物理的攻撃を無効にする能力などを持っている場合があるが

小型の影は武器を何か持っていれば雑魚と言っていい存在だった。

しかしそんな小型の影も数が多ければかなり厄介な存在となる。

「ああ〜もう、撃っても撃っても出てくるっ!!」

そして弾を撃ち尽くし、弾を再装填しようとしたその隙をついて複数の影が百志に襲い掛

かる。その時だ・・・・・複数の鉄骨が飛んできて“影”を串刺しにする。

百志が後ろを向き、壷を抱えて立っているゼクスに親指を立てるが、ゼクスはソッポを向

いてしまう。永樹が苦笑しながら百志のフォローに入る。

「キリがないよ、百志さん!!」

永樹が叫んだその瞬間遠くから炎の玉と氷柱が大量に飛んできて“影”を纏めて

大量に消し去る。そして走ってくる紅実と蒼実。

紅実の能力は“炎”。自在に炎を操り敵を燃やし尽くす。

蒼実の能力は“水”。水を霧にしたり、攻撃時は氷にするなど用途は多様化する。

「大丈夫か、百志!!永樹!?」

「当たり前だろ!俺様がこんな雑魚どもに負けるわけがねぇ!!」

「そのとおり♪」

百志は手に黒いグローブをつけて影を殴ると、影は異常なほどに地面にめり込んだ。

百志の異能は“重力”・・・・・半径十数メートルのエリアの重力の強弱を操作できるほか

自分の拳などの周りに重力の渦を作り、強力な打撃を繰り出すことなどもできる。

永樹が指をパチンと鳴らすと突風が起き、数体の影が壁に叩きつけられ消え去り、

カマイタチが起こり影を切り裂いていく。永樹の異能は“風”であった。

紅実と蒼実が走って合流すると形勢は逆転して、十数分で影はすべて消滅した。

 

 

 

「んじゃ今回は報酬がもらえないじゃねぇか!!」

「紅実姉様!!落ち着いてください。」

事情を聞いた紅実が叫ぶと蒼実が宥める。

「しゃあねぇだろ?約束ってやつは一番大切なんだ。」

ニヤッと笑いながら百志が言うと永樹が苦笑する。

「百志さんは“約束”って言葉に弱いからねぇ〜〜。」

そんな様子を遠くからジッと見ているゼクス。それに気づいていた百志は視線だけをゼクスに向ける。

「そんな遠巻きに見ていないでコッチ来るなり、どっか遠く行くなりしろよ。

さっき言ったとおりコッチに来ても取らねぇ〜し、逃げても追わないさ。」

百志の方へ一歩踏み出し、ゼクスがその言葉に、

「そう言う訳にはいかないな・・・・。」

その声とともにゼクスの足元に銃弾が着弾する。

百志達が周りを見回すとそこには黒いスーツの男達が重火器を持って囲んでおりその囲み

の一歩外には百志の見慣れた顔があった。

「やれやれ、依頼人本人がいらっしゃるとは。」

百志はわざと嫌味ったらしく敬語を使いながら、依頼人である資産家をにらみつける。

「先程の“影”狩りはお見事だった、さすがゴーストハンターといったところか?

だがね、依頼の壷をみすみすそんな素性もわからない少女に渡すとはどういうことかね?」

「だってお前さんが欲しいのは“コレ”だろ?」

百志の手の中には1枚のDVD-ROM

「あの壷の底・・・叩いてみたら変な音がしたんで調べたらアラビックリ。

二重底になってて底と底の間にこのDVD-ROMがあるじゃあないか?」

「百志さん、いつの間に!?」

永樹が驚いた表情で声を上げる。その直後、一発の銃声・・・そして・・・

「・・・・・あぁ・・壷が・・・・。」

ゼクスが銃弾に撃ち抜かれバラバラになり床に落ちた壷を見て落胆の表情を浮かべる。

「チッ、やはり銃は苦手だ・・・外してしまったよ・・・・。

さて、壷ごと返してくれれば報酬をやっていたのに馬鹿な男だな・・・ここで全員死んでもらおう。」

資産家が右手を上げると黒スーツの男達がいっせいに銃を構える。

「うっ・・・・うっ・・・。」

ゼクスは泣きながら壷の破片を集め始める。その手は破片で切れて血が出ていた。

「てめぇら・・・・約束っていうのはな・・・人と人が絶対の信頼を持って交わすモンだ。

他人がぶっ壊していいもんじゃねぇんだぜ・・・・・それを壊したんだ覚悟はできているだろうな!!」

百志の資産家を睨みつけた目は殺気をはらんでいた。紅実蒼実姉妹、永樹も同様だった。

「ふん、くだらないな・・・殺れ!!」

黒スーツの男たちの銃がいっせいに火を噴き銃弾が百志達に襲い掛かるが・・・・

百志が手をかざした瞬間に銃弾は勢いを一気に無くし地面に音を立てて落ちる。

永樹が両手をオーケストラの指揮者のように振りかざすと風が激しくなり、カマイタチが

銃器を切断し、強風が黒スーツの男達が吹き飛ばされる。

「ヒッ!!」

資産家の男が逃げ出そうとしたそのとき、その肩に手が置かれる。

「よう、逃げるか?」

資産家の男が振り向くとそこには紅実の姿・・・そして肩に置かれた紅実の腕から瞬く間

に炎が生まれ資産家の男の服に燃え移り、資産家の男は火にまかれる。

そんな資産家の男の空いている逆の肩にまた手が置かれる。蒼実の手だ。

「熱いですか?涼しくしましょうか?」

「あぁ!!頼む!!早く火を消してくれ!!」

すると蒼実の手が置かれた肩からドンドンと資産家の男の体が凍っていく。

資産家の男は最終的には右半身が燃え、左半身が凍り付いてしまった。

百志が資産家の男に止めを刺そうとすると誰かが止めた。

ゼクスだ。

「・・・・・・・私が殺る・・・。」

ゼクスがそう呟いた瞬間、近くにあった鉄骨がゆっくりと浮かび上がり先端を苦しんでい

る資産家の男に向ける。

そしてゼクスは無言で手をかざす。鉄骨は凄まじいスピードで飛んでいき資産家の男の

体を貫き壁に突き刺さる。

「悪いな・・・巻き込んじまって。」

百志がそう呟くとゼクスは首を横に振り、百志を見上げる。

「・・・確かに悲しい・・・だが祖父が守れと言ったのはそのDVD-ROMだろう。

だから大丈夫だ・・・・・ありがとう、“私と祖父の約束”を守ってくれて。」

ゼクスは初めて照れながらも軽くだが微笑んだ。

 

 

「・・・・・金がない・・・・金がぁ〜〜〜。」

百志は食事処【菊花】のカウンター席に座り、カウンターうつ伏せになりながら呟いた。

髪を万理香に弄くりまわされているのにも気にならないくらい落ち込んでいた。

借りた4WDの修理代や副業の方では支給されない銃の弾薬費などを依頼の報酬で賄おう

としていた百志は依頼がオジャンになってしまい自腹で払うことになり金が底をついてしまっていた。

一茶がその様子を見て苦笑する。

「あのよ、百志・・・・そんなところでウダウダすんじゃねぇよ・・・。営業妨害だ。」

「うう・・・・・。でよぉ〜渡したDVD-ROMの様子はどうだ?」

一茶は【菊花】のオーナーであると同時に腕のいい情報屋であった。

百志の質問に一茶は先程とは違いまじめな顔をして百志の耳元に呟く。

「あのDVD-ROMはな・・パスがなければ開けない仕組みになっていやがった。

しかもパスが1回でも違うの打ち込んだら中のデータが消去される最悪のオマケ付だ。」

百志はうつ伏せの状態から起き上がり、後ろで自分の髪を弄り回す万理香の頭を持ち、

奥にある座敷席に投げる。座敷の方から万理香の非難の声が聞こえるが無視する。

「つまりパスを探さなきゃいけねぇってわけだな?」

「まぁな・・・・だがわかったこともある。」

一茶はそう言ってノートPCを取り出し、画面を百志に見せ、ある部分を指差す。

「これはDVD-ROMのログイン画面だがココを見ろ。」

指差した部分には小さく二つのロゴが表示されていた。

「一つはゴーストハンター組合のロゴだ・・・もう一つは・・・?」

「公安警察だよ・・・・・・。百志・・お前ヤバイ事に手を出したみたいだな。」

「あぁ・・・・最悪だ。一茶、悪いが永樹達には今は内緒にしておいてくれ。

後で俺から話すからよ・・・・。」

一茶は“わかった”と言いノートPCをしまうと同時に店の扉が開き右目に包帯を巻いた少

女が入ってきて百志のコートを引っ張る。

「仕事だ、百志・・・・・。大型が出て狩ってほしいそうだ・・・外で永樹も待っている。」

「わかったゼクス。」

ゼクスの頭を軽くポンポンと叩き立ちあがって扉に歩き出すとゼクスもその後に続いて歩

き出す。そんなゼクスの腕にはゴーストハンターの腕章をつけていた。

行く先がなかったゼクスを百志は一茶に預けようとしたのだがゼクスはそれを拒否し

百志や永樹と共にゴーストハンターとして戦いたいと提案してきたのだ。

初めは百志も永樹も反対したが結局は先に折れて、手続きをしてゼクスをゴーストハンターとして仲間に入れたのだった。

「情報集め・・・・続けてもらえるか?」

ゼクスを先に外に行かせた百志は振り返り一茶に振り返り言うと一茶は深く頷いた。

 

第一幕・・・影を狩るものたち閉幕

 

 

 

第二幕開幕

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