第十一話 豊穣の神

第十一話 豊穣の神

 

 

 

 

 

月軌道基地・・・・火星基地には護衛艦隊を残し第十三艦隊は宇宙軍本部もあるこの基地に帰

還していた。兵士用カフェテラスの一角、強化ガラス横のテーブルにヨウは肘をついて

眼下に広がる月を何もせずジッと見つめている。テーブルの上にあるコーヒーは十数分

前には湯気を立て温かだったが今はすっかり冷めていた。地球標準時間で夜中だったため

カフェテラスにはヨウ以外に人はいなかった。

「席、ご一緒してもいいですか?」

ヨウがその声に視線を上げるとそこにはコーヒーを二杯持ったナルが立っていた。

「いいですよ・・・・・・。」

ナルはヨウとテーブルを挟んで反対側に向かい合うように座り持って来た二杯のコーヒーの内の

一杯を冷めたコーヒーの代わりにヨウの前に置く。

「どうぞ、冷めたものより温かい方がいいでしょう?」

「ありがとうございます・・・・・・。」

ヨウはそう言って頭を下げ再び月を見つめる。

「オーディンさんの事は残念だと思います。でもそんな風にずっと後悔しているだけじゃあダメですよ・・・・・。」

ナルがコーヒーを一飲みしそう言うとヨウはナルの方を見る。

「後悔してるんじゃないんですよ、俺は。オーディンさんに未来を任されたんです。

ただ・・・・・・ただ・・・・俺は任されてもできるかどうか・・・・不安なんですよっ!!

あの時何もできなかった俺に何ができるっていうんだ・・・クソッ・・・・クソッ。」

ナルは立ち上がりあ頭を抱え涙を流すヨウをやさしく抱きしめる。

「貴方は一人で抱え込む必要はないんですよ、カジさんだってクリスさんだって私だっ

て・・・・・、それに貴方の行く所、どこでもついて来てくれたレナスさんも・・・・。」

ナルがユックリとヨウから離れその場から動くとヨウの視線の先にはカフェテラスの入り

口に表情も変えずに立っているレナスの姿。

「彼女、あなたがここで月を見つめている間、ずっとあそこで立っていたんですよ。」

ヨウは立ち上がりレナスの元に歩き、レナスの手を引いて戻ってきて自分の隣に座らせる。

ナルは安心したように笑い“仕事がまだ残っている”と言って去っていく。

「なぁ、レナス・・・。」

「何でしょうか、マスター。」

「俺はこれから何をしたらいい?」

ヨウの問いにレナスは一間空けてから口を開く。

「私は何かと言う事は出来ません・・・・・・・・マスターがしたい事をすればいいと思います。」

「レナスは俺について来てくれるか?」

「はい、私はマスターにならどこへでもお供いたします。どこまでも・・・・・・・・・・。」

レナスの言葉にヨウは顔を赤くし、照れながら頬を掻く。

「ありがとう。」

“マスターの役に立てると思ったら胸が熱くなった・・・マスターの笑顔を見たら鼓動が早くなった・・・・・・。これは一体?”

そうレナスは思っていた。

照れているヨウの頭を誰かが思いっきり叩く。

「ラブラブな所わりぃが俺もいる事忘れんなよ♪」

ヨウが振り返ると叩いた主・・・カジがニヤつきながら立っており、カジはそのままヨウの向かい側の席に座る。

「俺さ、ショボ〜ンとしてるの自分にあわねぇってわかったからいつも通りでいく事にしたんだ。」

「そうね、カジが意気消沈するなんて隕石が落ちる以上に珍しい事だもの。」

クリスが紅茶の入ったカップを持ち、そう言いながらカジの隣の席に座る。

「思ったより落ち込んでなさそうね、ヨウ。」

続いてカフェテリアの入り口から声が聞こえ、ヨウ達が振り返るとそこには腕を組んだミズキの姿。

「ナル大佐やレナスのお陰でね。で、どうしたんだ姉貴?こんな所に来・・・・フゴッ!!」

「失礼な弟ね、私だってカフェテラス位来るわよ。」

ミズキのハイヒール回し蹴りが顔面に決まりイスから転げ落ちたヨウ。

「まぁこれをあんたたちに見せに来ただけなんだけどね。」

そう言ってミズキが机の上に置いたのは二枚の写真。

「これはいったいなんなんだよ・・・。」

一枚は太陽を写した写真だったのだが・・・・まるで団子に串を刺す様に太陽に巨大な円筒が突き刺さっていた。

「解析中、ただその円筒の物体が現れると同時に敵艦隊が護衛とでも言うかのように出現

しているわ。それでもう一枚は月と同等の大きさの球体が木星方面から地球に向けて接近しているのを撮った物。」

「イツツ・・・・この球体は敵の物なのか?」

「わからない、ただ隕石じゃない事は確かね。」

ヨウがイスに座りなおしミズキと会話を続けている横で球体の写された写真をレナスが手に取り、しばらくその写真を見つめた後呟いた。

「フレイ・・・・・。」

「え?」

「この球体は宇宙要塞フレイ・・・・・過去ラグナロクでは私達の帰還、補給地点として重宝さ

れていたものです。各種兵装もあの大きさにあわせ相当数装備されシールドも持っています。

移動できる要塞であり前線基地の役割を果たします。ラグナロク終盤、ロキに落とされたはず・・・・。」

「ふ〜ん、じゃあこっちの太陽にある筒状の物は何か分かる?」

ミズキが太陽と筒状の物体を同時に捉えている写真を見せるがレナスは首を横に振る。

それを見たミズキは写真を白衣の胸ポケットに入れレナスとヨウを立ち上がらせる。

「なんだよ、姉貴?」

「今からそのフレイとかいう奴の対策会議があるからあんたら連れて来いってナル大佐に言われたのよ。

それにレナスのお知り合い、ラグナロク時味方と言う事は今回も味方になってくれる可能性もあるし・・・・。」

そしてミズキに連れられ会議室前まで着いたとき中から凄まじい打撃音と共にある人物の声が聞こえる。

「このマシュマロが、なに会議室の机の上で暴れてやがるんですか、

というか私は部屋にいろと言っただろうがボケ!!まじで宇宙にほっぽりだすぞです。」

その声にヨウは頭を抱えその場で立ち止まるがミズキは関係ないとでも言うかのように

会議室のドアを開け放つ。

「不思議生物にお仕置き中悪いけどバカ弟とレナスを連れてきたわよ。」

会議室の中心で血まみれのアインとそのアインの胴を力いっぱい締め付けているナルの姿。

「はぁ〜、やっぱり不安だ・・・・・。」

ヨウは深いため息をついた。

 

「なるほど・・・・・ではフレイというあの球体にはコンタクトを取ってみないと敵味方はわからないと言う事ですね。」

ナルが膝の上に瀕死のアインを乗せそう言うとレナスが頷く。するとハートネットが口を開く。

「ふむ、ではあの太陽にある筒状の物体の対策を考えようか?」

その言葉に反応するようにミズキが資料を見ながら立ち上がる。

「そのことなんだけど少しいいかしら?」

「何かね、ミズキ君。」

「あくまで私の予測の範囲をでない仮説として聞いて欲しいんだけど・・・・太陽観測用衛星

からのデータを見てて気づいたんだけどね、

あの筒状の物体が太陽内部に進行してる事は完全に分かってるんだけど進行するたんびにね、

太陽がまるで風船のように肥大化してるのよ・・・・・・、このままいけば・・・・・。」

「このままいけば?」

「風船と同じように・・・・・・・・ボンッ!よ。間違いなく地球も太陽系の星ぼしもほぼ壊滅でしょうね。」

「それはどれくらい信憑性があるんですか?」

ナルの質問にミズキは肩をすくめる。

「だから、さっきも言ったように予測の範囲よ・・・・ただバルドルの解析装置を信じるっていうんならほぼ確実と言えるわ。」

ハートネットはゆっくり立ち上がり深く息を吸った後静かにミズキに言う。

「爆発までの猶予は?」

「そうね、あの筒状の物体が進行するスピードを変えないならば一ヶ月・・・・・。」

「ふむ、ではまずフレイとのコンタクトを優先しよう。ただし筒状の物体と敵艦隊の監視も怠らないように・・・。」

「正念場・・・・・・・ですね。」

ナルがそう言い立ち上がり会議室から出て行くと各艦隊司令達もそれ続いて慌しく出て行く。

ヨウも会議室から退室しようとすると後ろから声がかかる。

「ヨウ君、君に頼みがあるんだがね。」

「なんでしょうか、ハートネット提督。」

「フレイとのファーストコンタクト・・・・・ヴァルキュリアに任せたい。」

「わかりました。それでは失礼します。」

ヨウは敬礼し、レナス達と会議室を出て行く。それを見送ったハートネットは後ろに立っていたラリルに声をかける。

「それで、例の試作艦は順調かね?」

「ええ、一通り戦闘ができる程度には・・・・。」

「ふむ、敵艦隊との交戦までには間に合わせてくれよ。」

「それは重々・・・・。」

 

 

 

宇宙要塞フレイ・・・・その中心部にある管制室、指揮官の座る席に一人の人影・・・・。

「地球まであと一週間か・・・・、俺のマスターは美人だったらいいなぁ〜」

管制室に笑い声が響いていた。

 

 

 

第十二話

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