第九話 ムスペルヘイムの火花

第九話 ムスペルヘイムの火花

 

 

「呆気なかったな・・・・・。」

「だなぁ〜」

強化ガラスの向こうの宇宙を見つめながらいつもは付けない勲章を胸ポケットに付け

堅苦しく軍服を着込んだヨウは呟きにカジが頷いた。

ヨルムンガルドを撃破した後、バルハラにて修理を行い火星にある異星人の基地を攻撃し

たのだが敵防衛戦力は微々たる物で地球軍は損害も少なく、火星を奪還したのであった。

「火星ははなから捨てていたのか?それとも・・・・・。」

と言いつつ後方にあるドアに視線を向けため息を一つ。

「なんで女の着替えはこんなに遅いんだ?」

“さぁな・・・・”とカジもため息をついた。

地球宇宙軍は大きな戦闘で勝利したときは、艦隊の旗艦でパーティを開くのが恒例だった。

よってムダだと言われているが戦艦には必ずパーティ用の会場スペースがあった。

火星奪還したと言う事でパーティが開かれ、わざわざハートネット提督も来るとの事だった。

ヨウがいるのは第十三艦隊旗艦【白燈】の一室の前の廊下。ナル大佐の艦長室だった。

クリスがレナスにパーティ用のドレスを着せると言うことでレナスを部屋に引きずって行

き、ヨウとカジは立ち入り禁止状態で廊下に立ち尽くしていた。

その時、“プシュ”という音と共に扉が開く。

「お待たせ〜♪」

クリスが扉から出てくる。その後にはナル大佐。

「さぁ、レナスさん・・・・。」

ナルに手を引かれて出てきたレナスに思わずヨウは見とれてしまった。髪を三つ網で纏め、

白いドレスを着て、手には肘まである白い手袋。ハイヒールを履いた姿だった。

「どうかしましたか、マスター?」

じっと見つめているとレナスが無表情に尋ねてくる。服を着替えても余り感想はない様だ。

「え?ああ、綺麗だな、と思ってな。」

「そうですか・・・・・。」

“さてと・・・”とクリスが口を開く。

「私達も着替えるからヨウはレナスちゃんを連れて会場に先に行ってて。」

「わかった。」

するとカジが慌てたように自分を指差しながら叫ぶ。

「俺も先に行っていいよな、早く豪華な飯にありつきたいんだよ〜

あぁ〜、キャビア、最高級ステーキ・・・・・くそっ!!!!」

「レーディを二人もエスコートできるんだから待ちなさい!!」

ガックリとうな垂れるカジに苦笑を浮かべながらヨウはレナスに言う。

「それじゃあ行こうか、レナス。」

「はい、マスター。」

そしてユックリと二人は歩き出した。

 

 

 

ヨウ達が会場に入るとすでに護衛艦から戦艦までの艦長クラス、その他地球軍本部のお偉

い方が多数、高級なワインや料理を飲食しながら談笑を交わしていた。しかしヨウを見つ

けるとその場に居た将校や仕官が一斉にアイドルでも見つけたかのように群がってきた。

“よくやった”、“憧れる”、“助かったよ”などヨウは揉みくちゃにされながら

いろいろな言葉で感謝された。

「本当に良くやってくれた・・・・・。」

どこからかの声と共にヨウとレナスを囲んでいた人ごみから一つの道が作られハートネッ

トが姿を現した。ヨウも含めその場に居た全員がハートネットに向け敬礼する。

「今日は火星奪還を祝ってのパーティだ、そんなにかしこまらなくていい。」

そしてヨウ達を囲んでいた将校や仕官がそれぞれまた散っていく。

ハートネットはワインを片手に“さて”と間を置き口を開く。

「さて、まず太陽系奪還の第一歩を踏み出したわけだが・・・・・この状況、どう思うかね?」

ハートネットはナル大佐の出した報告書を読んでいる、火星基地の反撃が微々たる物だったことも・・・・・・。

「わかりません・・・・ただ・・・・・・・・・。」

「ただ、なんだね?」

ヨウはノンアルコールのシャンパンを一口のみ、言う

「前から不思議だったのですが、戦闘後の宙域に敵異星人の死体やその名残と言う物が発見されていないのです。」

「だが爆発などで跡形もなくなるのは珍しくない事だが。」

「確かにそうです、確かにそうなんですが・・・・敵の艦隊の動きがどうも機械的というか

生物が動かしていると言う感じがしないというか・・・・・・。」

「つまりあの艦隊は無人で動いているというのかね?そんなバカな。」

沈黙を保っていたレナスが口を開く。

「私達の技術を使えば問題は有りません。先の戦闘で撃沈したヨルムンガルドもそうです

が、生体コンピュータ以外の生命体は乗っておりません。これは生体コンピュータが

全システムを操作しているためです。生体コンピュータがいなかったとしてもその類の

コンピュータなら私達(神々)の技術を使えば作るのもたやすい事です。」

いまいち納得のいかなそうな顔をするハートネットだが、横でラリルが口を開く。

「レナスさんの言っている事は間違っていないと思います。

戦闘前の生体スキャンでも敵艦隊に反応はありませんでしたし、戦闘後の残骸回収でも

そういった物は発見されておりません。これはまさに・・・・・・・。」

「無人艦隊も可能・・・・か・・・・・、となると我々(地球軍)が戦っている敵は一体・・・・・・

いや、やめておこう。この場は楽しむ時だからな。では楽しみたまえ、レナス君、ヨウ艦長。」

ハートネット達が去っていくと丁度、会場内にダンス用の曲が流れ出し様々な男女の組が

中央に集まりだし曲にあわせて踊りだす。

ヨウは一瞬だけ横にいるレナスに目線を移しダンスの方に戻しつつ口を開く。

「踊ろうか、レナス。」

「しかし私は踊りなど知りませんが・・・・・・。」

ヨウは“いいから・・・・・・・。”とレナスの手を強引に掴んで引っ張っていく。

そしてダンスする場所まで来ると優しくレナスの腰に手を回し、残った手をレナスと握り合う。

「俺がリードするから大丈夫だよ。」

そう言うヨウの顔は真っ赤だった。曲が始まりステップを踏み出す。

しばらくするとレナスも慣れてきたのかヨウの動きにあわせる様にステップをする。

不意にレナスはヨウの顔を見上げ口を開く。

「マスター・・・・。」

「なんだい、レナス。」

レナスは一旦視線を落とし、少し考えるように間を置いた後、再び見上げる。

「なぜマスターは戦艦のただのメインシステムの私に何故このような扱いをしていただけるのですか?」

そのレナスの言葉にヨウは思わずレナスを強く握る。

「メインシステムだろうとレナス、君は生きているんだ、俺たちと同じなんだよ。

だから別に不思議じゃあないんだ!!それに・・・・・。」

「それに、何ですか?」

「あの・・・え〜と・・・その・・・・・・。」

真剣な目で見つめられ思わずヨウが目を逸らしたその時・・・・・・凄まじい揺れがその場を襲った。

「なんだ!?」

『緊急警報、敵異星人艦隊出現、全艦戦闘態勢に移行してください。繰り返します、敵異星・・・・・。』

「レナス、ヴァルキュリアに戻るぞ!!」

「はい。」

そしてヨウとレナスが走り出そうとした時、ナルが口にソースをベットリ付けたアインを

鷲掴みにして走ってくる。

「ヨウさん、ミズキさんから通信があってフォボスにも敵艦が現れたそうです。

ヴァルキュリアはそちらに・・・・・・・。」

「敵艦って一艦で来たんですか?」

「前のヨルムンガルドやヴァルキュリアと同じ特殊な艦らしいです。」

ナルの言葉にヨウは一瞬ヴァルキュリアと瓜二つの黒い戦艦の姿を思い出す。

「ロキ・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

「ロキじゃない・・・・・あれは・・・・?」

スクリーンに映ったのはロキではなかった。黒いのは同様だが大きさは倍近くあり

4門の巨大な砲をもった戦艦だった。

「あれは大型砲撃戦艦【ヘル】です・・・・・・・。特徴は巨大重力砲4門を中心とした長距離砲

撃戦が得意な艦です。」

『遅いわよ、バカ弟!!!!

ミズキから通信が入る、そして外部カメラがソーバルを映す・・・・、中破しているソーバルの姿だった。

「なんでそんなに損傷してるんだよ姉貴!?」

ミズキの代わりにレナスが答える

「ヘルは対電磁攻撃装甲など持っていてミョンニルなどを撃っても効果が薄いのです。」

その時ヘルが艦首をヴァルキュリアに向け、同時に操縦室内に警報が鳴り出す。

「警報、ヘルの重力砲に高エネルギー反応・・・・・来ます。」

「ニーベルゲンの指輪起動!!!!」

五つのリング状のものがヘルから発射された重力砲を弾き、ヴァルキュリアへの直撃を防ぐ。

「ニーベルゲンの指輪機動効率90%にダウン、ヘルの砲撃、さらに来ます!!」

「クッ!!指輪を起動している限りコッチは攻撃できない、かといって起動しなければ直

撃してしまう・・・・・。クソッ!!どうする・・・・・・。」

 

 

 

その時フォボス【バルハラ】

「苦戦しているな」

オーディンは立体映像の姿で戦闘が行われている宇宙を見上げながら呟いた。

そしてあるシステムを起動させ・・・・深く目を瞑り言った。

「そろそろ・・・・潮時・・・・だな。」

 

 

 

 

第十話

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