偽説:四国志
〜再生のための統一〜
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大量に上がった旗の正体は慧達が袁術軍兵達の遺体から拝借した旗を地面に立てていただけであった。
「遠くでよく見えないことを利用しての旗を使用した計略は見事だったが・・・・それは無理だ。」
慧の頼みを紀霊はあっさりと拒否した。
「何故だっ!?民間人を街に受け入れてもらいたいだけなんだ。」
「残念だがそれは出来ない・・なぜなら我が君主、袁術様は亡くなられ我々も街から撤退中の身。
街の民間人は商人旅団に身柄を預けて我々は殿を務めていたのだ。」
慧は紀霊の言葉に目を見開く。
「なるほどな・・・・戦力差が開いていたのに撤退しなかったのはそういう理由だったのか。」
「あぁ、そちらも我々と同じ境遇のようだな。ではこうしよう・・・共同戦線だ。
これより我々は民間人の護衛のため商人旅団に合流する。貴殿らも我々と一緒に安全地帯まで民間人を護衛する。」
慧が後ろを振り向くと臧覇は静かに頷く。それを見た慧は改めて紀霊に向き直る。
「わかった、共同戦線よろしく頼む。」
慧の差し出した手を紀霊は表情を緩めながら握りる。そして手を離すとすぐさま自分の馬に飛び乗る。
「そうと決まればそちらの本隊をこちらに連れて来てくれ。早くここを離れないとまた追撃部隊が来る。」
「臧覇、さっそく慶次達を呼んできてくれ。」
「了解でさぁ、兄貴!!」
臧覇は馬に飛び乗り待機している慶次達の元へと走っていく。
それを見送った慧は馬に乗り、紀霊の横に並走しながら口を開く。
「そういえば行き先は決まっているのか?」
「ああ、公孫サン殿の下に身を寄せる手はずとなっている。」
公孫サン・・・・白馬将軍と称えられ白馬陣と呼ばれる白馬騎兵の軍を従えている事で有名である。
「わかった・・・、本隊が来次第、商人旅団に合流しよう。」
袁紹軍本陣・・・・。
「高覧、この役立たずめがっ!!この袁紹に恥をかかす気かっ!?」
いたるところに金箔を張り巡らした鎧を着て、髯をきれいに整えた男はそう叫び、目の前に跪いていた高覧を蹴り倒す。
高覧を蹴り倒した男・・その名を袁紹、字を本初と言った。
名門袁家の出身で有ることもあり順調に出世を繰り返していた男であり、代々受け継いだ多数の軍を持っていた。
「申し訳ございません、袁紹様。追撃中に敵増援に会いまして全滅の危機もあり一時撤退した次第でございます。」
「黙れっ!!貴様など討ち取られてもわしに取ってみれば痛くも痒くもないわっ!!
敵将と刺し違えてくれた方がまだ役に立った!!」
高覧は袁紹のその言葉にショックを受けたように俯き、地面に血が出るほどに爪を立てる。
そんな中、一人の年老いた文官が高覧を庇うように前へ進み出る。
「袁紹様、それはいかに袁紹様とはいえ言いすぎですぞ。公孫サンとの戦を控えている中、
兵力の無駄な損耗が無かったのは良い事では有りませぬか?」
「うっ・・・・田豊がそう言うのなら・・・・もうよい、下がれっ!!」
年老いた文官・・・袁紹軍軍師【田豊】の諭すような言葉に出鼻を挫かれた袁紹はそう言い残し本陣の奥へと歩き去ってしまう。
田豊は袁紹が歩き去るのを見送った後、今だ膝を着いて俯いたままの高覧の肩に優しく手を置く。
「高覧殿、貴殿はよくやってくれた。袁紹殿は戦の前で気が立っているだけなのだ・・・心の
中では貴殿の事・・・・しっかりわかっておると思うぞ?」
「田豊様・・・・・・ありがとうございます。少し気が楽になりました。」
高覧がゆっくりと立ち上がると田豊は優しい表情から、軍師としての冷静な顔になる。
「高覧殿、貴殿には公孫サンとの戦・・・・兵糧庫を淳于瓊殿と共に護衛してもらう。今回の
戦いは長引くだろう、となれば兵糧庫はまさに命綱・・しっかり頼みましたぞ?」
「はっ!!命に代えましても!!」
「袁紹殿・・・少々よろしいですかな?」
宿舎へと歩みを進めていた袁紹に一人の小柄な文官が声をかけた。
「何用だ、逢紀?」
「はっ・・・少々袁紹様のお耳に入れておきたいことが・・・よろしいですかな?」
“にゃぁ〜〜”
「蔡エンさん、その猫は?」
民間人と兵達の列の先頭を馬で先導する紀霊と並走する馬の上、
慧の後ろに乗っている蔡エンが抱えている猫が慧は気になってしょうがない様子だった。
「あ・・・この猫・・は・・・待っている・・・間に・・・見つけて・・・餌あげたら・・・なつい・・てくれた・・ん・・です。」
「あ、後で俺にも触らせてください。」
「フフフ・・・慧さんも・・猫・・好き・・・なんで・・す・ね・・。」
その時、慧と蔡エンの乗る馬の目の前の地面に矢が刺さる。
間にれずに前から女が馬に乗り、両手に演舞飾剣を持ち突っ込んでくる。
慧はとっさに薙刀を構え、女性の刀を受け止める。
「誰だっ!いきなり何をするっ!?」
「敵に語る言葉はないわ・・・。」
「そこまでだ、二人とも。」
女と慧の間に紀霊が割ってはいる。
「桃花殿・・・慧殿は味方だ。剣を引いてくれ。」
桃花と呼ばれた女はよく見ると演舞用の薄い衣装を着た美女であった。
そんな桃花は紀霊の言葉に驚きの表情を浮かべた後、ゆっくりと剣を鞘へとしまい、慧へ頭を下げる。
「ごめんなさい、敵かと思ったの。私は桃花、商人旅団の護衛部隊の指揮をしているわ。」
「俺は・・・・」
“にゃ〜”
慧が自己紹介しようとした時、蔡エンの抱えていた猫が鳴くと桃花の顔が一気に険しくなる。
「ね、猫がいるの?」
「あ・・・はい・・ここに・・。」
蔡エンが猫を抱えて桃花に差し出すと・・・・・蔡エンから猫を奪い取り、先ほどまで無表情と言っ
ても良い位感情の変化の無かった顔が一気に崩れる。
「あぁぁぁぁん♪可愛い!!可愛すぎるわぁ♪もう放せない・・・離れられないぃ〜♪」
桃花は猫に頬擦りしたり抱きしめたりして完全に周りをシャットアウトする。
「あ〜、え〜と自己紹介は後でいいよな?」
「問題ないだろう・・・こうなるとしばらく我々の声は彼女には聞えないからな。」
紀霊は呆れた顔で慧の言葉に頷き、馬を進める。
しばらく薦めていくと商人旅団と民間人の列が見えてきた。
「あれが商人旅団だ・・・、これから合流するがまだ、公孫サン殿の領地までは先が長い。
気を引き締めて頼む・・・。」
「ああ、わかっているさ。」
慧は深く頷いた。
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