偽説:四国志
〜再生のための統一〜
A
「何だ貴様らは!?」
「名乗るようなものではない・・・。」
慧はそう答えて、薙刀の柄を騎兵に叩きつけて落馬させる。
「慧君!!あの大きな蔵の所!!」
更来の言葉に慧が視線を素早く近くにあった大きな蔵の方へ向けると、そこには兵と、兵
から蔵を守るように立ちふさがっている一人の女性。
1人の兵が動き、女性に斬りかかろうとする。
「・・・・っ!!行くぞ、慶次!!」
「OK♪」
慧はそう叫ぶと手に持った薙刀を槍投げの要領で投げ、投げられた薙刀は
女性に斬りかかろうとした兵の目の前の地面に突き刺さり、兵は怯んでその場で立ち止まる。
慧は勢いよく走りこみ、兵にタックルをして地面に押し倒す。
やられた兵の仲間であろう2人の騎兵が剣を構え、慧に襲い掛かる。
が、遠くから飛んできた競技用の矢が馬に直撃し、暴れだした馬から騎兵が地面に落下する。
更来の放った矢であった。
「俺を忘れんじゃねぇ!!!」
慶次が凄まじい脚力で飛び上がり、蹴りを残り一人騎兵に見舞う。
すると街を襲っていた兵達は一斉に引いていった。
「何だ、アッサリ退いていきやがったな。」
慶次が呟くと慧は地面に押し倒した兵を殴り、気絶させた後、女性にゆっくりと近づく。
女性は恐怖のためか足を震わせながら、倉を守るように大きく手を広げ険しい表情のまま
固まっていた。
慧は女性の肩に両手をゆっくりと置くと、女性は肩をビクっとさせるが慧が女性の肩を
ゆっくりと揉み解すと表情に徐々にだが柔らかさが戻ってくる。
「大丈夫だ、追い払ったから安心していい。
街の火も鎮火しつつある・・・さぁゆっくりと手を下ろして、この場でいい。
無理せずゆっくり座れ。」
慧に促されるがままに女性はペタンと地面に座り込んだ。
そして女性に合わせるように中腰になった慧に、女性は抱きついて大声を上げて泣いた。
「・・・・・・・・。」
慧は女性が必死に守っていた蔵の中をジッと見ていた。
「あの・・・お茶・・・その・・・入りました・・休憩・・をしま・・せん・・か?」
震えるような声で話しかけられ慧が振り返るとそこには助けた女性がオドオドとしながら、蔵の入り口に立っていた。
蔡ヨウの娘、蔡エン、字は文姫。
彼女は今、慧に話しかけたように震えた声でそう名乗っていた。
「本・・・・・・、」
「え?」
「本が好きなのか?」
慧にそう聞かれると、蔡エンは顔を真っ赤にしてうつむき、指を遊ばせてもじもじする。
蔵の中には様々な書物が所狭しとしまわれていた。
「あ・・・この・・本は・・・父が・・・集めた・・本で・・・・。その・・・私・・人と・・・話したり・・・
するの・・苦手で・・・、代わりに・・いつ・も本・・・読んでて・・本が私の・・・親友・・です。」
「父親は?見当たらなかったが・・・。」
「父は・・・・死にまし・・た。董卓様・・が殺さ・・れた後・・すぐに・・。ほんの1ヶ月・・・・前・・・。」
「・・・すまない。」
「いえ・・・大丈夫・・です・・、それより・・お茶・・・冷める・・ので・・・行きま・・せん・・・か?」
慧は“そうだな”といい蔵から出る・・・そして後ろからついて来る蔡エンを振り返る。
「確かに本はいい・・読んでいると別世界を味わえる。」
慧がそう言うと、蔡エンも嬉しそうにぎこちなく微笑んだ。
慧が初めて見た蔡エンの笑みだった。