偽説:四国志
〜再生のための統一〜
B
蔵の隣に母屋があり、慧達は母屋に案内されていた。
蔡エンの言葉に慶次は呆然とした。
「今なって言ったんだい、蔡エンちゃん?」
あいも変らず体をビクビクさせながら蔡エンはうつむいて手をモジモジとさせる。
「す・・・すいません・・・あの・・・その・・・今は・・192年・・・初平3年7月・・・です。」
「アハハハ、まさに三国時代だ♪そういや蔡エン・・・といえば蔡文姫の名と、才女として有名だね。」
更来がにこやかにそう言いつつお茶を啜る横で、慧は大薙刀をじっと見ていた。
「認めるしかないだろう、俺達は三国時代の中国に来ちまってるんだ。
原理は分からないが・・・関帝廟にあったこの薙刀に触れた瞬間光が俺達を包み気づいた
らこの時代に来ていた。
しかもこの薙刀までもが一緒にこの時代に来ている・・・。
俺達が元の時代に戻る鍵はこの薙刀なのかもしれない・・・・。」
「ん〜となればやっぱり関帝廟繋がりで関羽さんに接触してみるかい?」
「でもよ〜更来。関羽が何処にいるかわかんのか?」
慧はずっと薙刀に向けていた視線をゆっくりと蔡エンへと向ける。
「劉備玄徳を知っているか?」
「・・・・えと・・・劉備さんは・・・関わらない方が・・・いいと・・・思います・・・。」
「どういうことだ?」
その場にいた全員が凄まじい勢いで蔡エンに視線を向けると、蔡エンは驚いて思いっきり後ろに飛び退く。
そして“ちょっと待ってくださいね”と言ってどこかへ行ってしまった。
そして数刻後、大きな紙を一枚持ってきて部屋の中心に広げる。
その紙は三国時代の中国の地図だった。
「あの・・・皆さんの会話からは・・・全然話が・・・掴めなかった・・んですけど・・・
少し・・・説明・・・・しますね・・・。
現在・・・この地は劉備さんの蜀、曹操さんの魏、孫権さんの呉、冥帝の玉・・・あと反乱軍の拠点に分轄されています。」
「早速質問・・・・120年に三国に分かれてるのも不思議だけど、玉って国と反乱軍って何かな?僕が読んだ歴史書じゃ姿形全然出てこない名だよ。」
「・・・えっと・・・・詳しくは・・・分からない・・・ですけど・・・丁度劉備さんが蜀・・・の建・・・国を宣言した・・ときに・・・交州付近に突然大軍が現れ・・・・
て瞬く間に・・・・呉を侵攻して臨海付近まで占領し・・・その大軍の大将が冥帝と名乗り、玉を建国しまし・・・た。
その際玉は・・・これ以上侵攻しないのを・・・・条件に孫権さんの父、孫堅さんを・・・人質として要求・・・・一部武将を除いて呉もそれを受け入れて・・・・・。
盟主を人質に取られた呉は結局・・半分玉の属国と成り・・・果てています。
魏は今のところ・・・無駄に争い・・・・たくないら・・・しく玉と同盟を・・結んでいます・・・。」
蔡エンは一端言葉を打ち切り、茶をゆっくりと飲む。
慧達は浅いながらも知っている三国志と、現在聞かされた内容の差に驚きを隠せないでいた。
「話を・・・続け・・ます・・ね。
そんな中、1国、玉と対抗姿勢を示した国が蜀です・・・ですが・・・魏、呉、玉の三国から攻められて現在風前の灯火です・・・・。
今は各地からの・・・反乱軍の援護や・・・救援で何とか凌いではいますが・・・・。
すいません、反乱軍のことも・・・説明します・・・ね・・・、えっと反乱軍は・・・玉の占領や政策を良しとしない玉に対抗している人達の事で、
大きい反乱軍は・・孫策さん、公孫サンさん、甘寧さん・・・・、ここから一番近い・・・反乱軍は小・・・規模ですが袁術さん・・・でしょう・・か?
そのような反乱軍・・・に囲まれ、蜀からも・・攻撃を受ける可能性が・・・あることから魏が玉と同盟を組んでいる可能性もあります。
また、この辺には董卓様・・・・の残党も・・・少数盗賊に・・・身を落として・・・暴れまわって・・・・います。
あなた達が追っ払ってくれた・・・兵達も・・・その残党です・・・。」
「なるほど。」
慧と更来はそう言って考え込む、慶次は思いっきり大の字で寝てしまっている。
「あ、あの・・・私から・・・も・・質問・・・いい、ですか?」
蔡エンはおそるおそるそう言うと、慧と更来は蔡エンへと向き直る。
「あぁ、もちろんだ。」
蔡エンは湯飲みに入ったお茶を一気に飲みきり意を決したように言葉を紡ぐ。
「その服といい、貴方達はいったい何なのですか?」
蔡エンの言葉はいつもの震えのないはっきりとした言葉だった。
しかし二人にジッと見られると蔡エンは顔を真っ赤にして、寝ている慶次の上半身を起こしそこに隠れてしまう。
「アハハハ・・・慶次くんは大きいから隠れるにはピッタリだね♪」
「おい、別に睨んでいるわけじゃない。ちゃんと話すからその馬鹿を放してちゃんと座ってくれ。」
「あ、はい。」
蔡エンが頷いて慶次を放すと、慶次は後ろに支えをなくして倒れ後頭部を勢いよく床にぶ
つけ、その衝撃で目を覚まし、その痛みでしばらくその場をのた打ち回った。
某山中
「馬鹿やろうが!!先駆けした上に、奪ってもいいが人を殺すなっていう俺等の掟を破りやがって!!
しかも、たった3人にやられて逃げ帰ってくるたぁ、この臧覇の顔に泥を塗るつもりか、てめぇら。」
背中には【盗】の文字が描かれた赤一色の服装、髪を立てた男が傷だらけの子分の一人を思いっきり殴った。
『す、すいません・・お頭!』
“それにしても”と側の地面に突き刺してある巨大な剣の柄を触りながら・・山賊の頭・・・
臧覇は口元に笑みを浮かべる。
そして剣を地面から抜き空へ振りかぶる。
「たった3人で追い返すたぁおもしれぇ奴らだ・・・・。おい、野郎ども!!そいつらに会いに行くぞ、準備しろや!!!!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』