偽説:四国志
〜再生のための統一〜
「何やっているんだ?」
「ひっ!!」
蔵の中においてある机で、すでに夜で太陽の光がない中、蝋燭1本の光を頼りに何かを書
いている蔡エンに慧が声をかけるとその場から飛び上がる勢いで椅子を蹴って立ち上がる。
「そこまで驚かなくてもいいと思うが。」
「す・・すいません。えっと・・・お連れ・・の方々は?」
「グッスリ寝ているよ。にしても何を書いているんだ?」
蔡エンは持ったままにしていた筆を筆立てに置きうつむく。
「えっと・・・先ほど・・・・・・慧さん達から・・・・聞いた・・お話・・を・・・私の・・見解を・・・入れて・・・・。」
慧達は蔡エンに今まで自分自身に起きたことを全て話した。
信じてもらえるはずもないと思っていた慧だが蔡エンは顔を上げ、目を輝かせて聞いてい
た。新しい知識を得ようとする欲・・・・彼女はそれが強いのだと慧は感じていた。
「蔡エンさんの見解か・・気になるな?」
慧がからかうように言うと、蔡エンはうつむいた上に顔を林檎のように真っ赤にさせる
「な、内緒です・・・・・・。っ!?この音は!!」
突然外が騒がしくなるが、その騒がしい音に蔡エンは震えだす。
多数の馬が地面を蹴り走ってくる音・・・・。
「蔡エンさんはココにいるんだ、いいな!!」
慧は蔡エンの返事も聞かずに、蔵を飛び出し母屋へ向かう。
母屋では慶次と更来がすぐに起きており、慶次から薙刀を投げ渡される。
そして三人で街の大通りに出ると、そこには数十騎の山賊・・・そしてその先頭には赤い服を
着て巨大な剣を持った男が馬から下りて立っていた。
その男は慧達を見るなり、頭を下げた。後ろにいた盗賊達も馬から下りて頭を下げる。
「よう・・・・手間取らせて昼間は悪かったな・・・、部下にはしっかり言いつけたから勘弁して欲しい。」
「残念ながら俺達はこの街の者じゃない・・・俺達に謝る必要はないと思うが?」
男は今度は腹を抱えて笑い出す。
「確かにそうだ♪で、まぁ街に下りてきたのはもう一つ理由があってな。・・・てめぇの名前は?」
「慧・・・・司城 慧だ。」
「俺の名は臧覇、字は宣高・・・司城 慧、貴殿との一騎討ちを所望する!!」
『マジかよ・・・。』
慶次と更来はお互い向き合い驚きと共にそう呟くが・・・慧の口から出た言葉は・・・・
「いいだろう。」
『はいぃぃぃ!?』
驚いている二人を横目に、慧は薙刀を何回か素振りし・・・薙刀を持っていない手で
臧覇へ向け挑戦的な手招きをする。
臧覇は残虐な笑みを浮かべ慧に向け一気に駆け寄り巨大な剣を振り下ろす。
慧は薙刀の柄でそれを受け止めるが、慧の足元が臧覇の凄まじい力で地面に沈み込む。
「俺の1撃を受け止めるたぁ、やるじゃねぇか!!だが脇腹ががら空きだ!」
臧覇は蹴りを繰り出し、それは見事に慧の脇腹に直撃する。
慧は苦痛に顔を歪めながら剣を押し返し、いったん後ろに後退する。
蹴られたときに口の中を切ってしまったのか、血の混じった唾を地面に吐き捨てた慧は
薙刀をゆっくりと構えつつ、口元に笑みを浮かべた。
それを見て慶次と更来は冷や汗をかき、苦笑する。
「あ、やべぇ・・・・・・ひさびさにやべぇ・・・慧がキレた・・・・・。」
「アハハハ、慧君、昔キレて他校の不良グループ十数人病院送りにしちゃったもんねぇ〜
後始末と事件化しないように根回し・・・結構大変だったんだよ・・・。」
「へいへい、金持ちの愚痴は聞きたかない・・・それより離れるぞ、巻き込まれたらやべぇしな。」
臧覇は雰囲気の変った慧を見て剣を握り直す。
「そうこなくちゃ、おもしろかねぇぜ・・・おらぁ!!」
臧覇は先ほどと同じように巨大な剣を重さに任せて振り下ろす、が慧は数歩横に移動することで的確にそれを避ける、
臧覇の剣が地面にめり込む。
「二度も同じ攻撃を喰らうと思うか?」
「いいや、もう1手あるさ!!」
臧覇は剣をそのままの位置で横に水平にし、慧の足を狙うように横に薙ぎ払う。
「甘い・・・くそ甘い考えだ・・・臧覇。」
慧は斬られる直前に足を上げ、剣の刃の腹の部分を踏みつけ地面に固定する。
いくら臧覇は力を入れても剣は慧の足の下から動かない。
臧覇は視線を剣からゆっくりと慧の顔に向ける・・・その慧の表情は殺気を含んだ笑みで満たされていた。
直後、薙刀の柄の先が臧覇の側頭部を薙ぎ払い、その勢いで臧覇は剣を手放し吹き飛ばされる。
慧は臧覇の剣を拾うと盗賊の方へと投げ、
投げられた剣は、頭のピンチを見て横槍を入れようとしていた山賊の目の前の地面に突き刺さる。
怯んで横槍を入れないことを確認した慧はゆっくりと歩き出し薙刀を起き上がろうとした
臧覇の首に突きつける。
「どうする、抵抗するか?それとも首をはねようか?」
その時だ、誰かの手が臧覇に突きつけている薙刀の柄を力いっぱい掴む。
掴んだ手の持ち主を見て、慧は徐々にいつもの殺気のない表情に戻ると同時に驚きの表情を浮かべる。
「さ、蔡エンさん、なんでここに?」
「だ、だめ・・・です。たとえ・・・悪い人・・でも・・・殺して・・・は・・ダメ!」
震える手で柄を握り締め、大きく首を横に振りながら蔡エンは言った。
蔡エンの目から大粒の涙を流しつつ・・・・。
それを見た慧は溜息をつき、薙刀を臧覇から離し、ハンカチで蔡エンの涙を拭う。
そして臧覇を睨みつけ言い放つ。
「これで懲りたらこの街には手を出すな!!今日は蔡エンさんに免じて見逃してやる!!」
言い放った慧は蔡エンを促し、慶次や更来と母屋に帰ろうとする。
「待て!!」
「なんだ・・・まだ痛めつけ足りな・・・・なっ!?」
臧覇に止められた慧が振り返ると、そこには臧覇を含む全ての山賊が地面に土下座していた。
「慧・・・・いや、慧の兄貴!!俺ぁ・・・アンタの強さに惚れた!!子分にしてくれ!!いや、してください!!」
『お願ぇします!!!』
いきなりの予想外の言葉に、慧だけでなく蔡エン、慶次、更来は呆然とする。
「わ、悪いが俺は子分とかそういうのはとるつもりはない・・・。」
「そう言わず・・おねげぇします!!」
慧の足にすがりつく臧覇・・・そんな光景を見て慶次や更来は腹を抱えて笑い、先ほどまで泣
いていた蔡エンも口を押さえて笑っていた。
緊張から一気に和やかになった雰囲気だったが、街の外から走ってきた一人の男の言葉
にその場の全員が険しい表情を浮かべた。
男は臧覇の元に息を切らせつつ立つ。おそらく臧覇の子分だろう。
「か、頭!!」
「どうした、そんな慌てて?」
「ちょっくら別の山賊の所に行った帰りに見たんです!!匈奴です!!
匈奴の奴らが街まで数日の所に来ています!!」
「何!!数は!?」
「わからねぇ・・・おおよそ数百・・・途中に分かれ道があるからこの町に来るのはおそらく百数十・・・。やべぇよ!!」
慶次は更来に聞く。
「匈奴ってなんだ?」
「匈奴はモンゴル周辺にいる遊牧民族で、ちょくちょく漢王朝にちょっかい出す事で有名だね。」
蔡エンは恐怖の表情で慧の制服の裾を引っ張る。
慧は少し考えた後・・・・ゆっくりと口を開いた。
「臧覇・・・お前らを子分にする気はない・・・だが、匈奴の軍が来たらお前らも商売上がったりだ。そこで、共同戦線をはらないか?」
「共同戦線の事は構いませんが、何か匈奴の奴らを追い払う策でもあるんですかい?」
慧は“あぁ”と頷きながら街のすぐ横にある山を意味ありげに見つめた。
「準備がいる・・・・臧覇、あの山には詳しいか?」
「当たり前でさぁ!!俺らは軍崩れとはいえ山賊ですぜ!!庭ですよ、庭!!」
「よし、これから言う事を迅速に行ってくれ・・時間との勝負だぞ!!」
『了解でさぁ、兄貴!!』
指示を受けた臧覇とその子分たちはそう叫び散っていく。
その光景を見つつ慧は頭を抱え呟いた。
「だから兄貴じゃない・・・・。」