偽説:四国志
〜再生のための統一〜
山々を縫うようにある山道を百数十の集団が歩いていた。
しかし剣や槍、弓で武装しているのはせいぜい70人前後・・・・捕虜だった匈奴兵も協力を
申し出てくれたため多少は増えているものの、他の多数は非武装な民達だった。
「避難先までの道は俺達には分からない・・・案内を頼む、蔡エンさん。」
「あ・・・はい・・・まかせて・・・くだ・・さい・・・・。でも・・・追撃・・・ないですか?」
「それは分からない・・・だからこそ急がなくてはいけない。」
そんな会話をしていると民達が騒ぎ出し一つの方向を見る。
街があった方向から煙が上がっていた。
慧は、蔡エンに民を先導し急いで行けと言いその場で足を止める。
「さて、どれだけ押さえられるか?」
「まぁ三人じゃたかが知れているけどな・・・・・。」
「まったく・・・なんでこの世界に来てしまったのかとかも解決していないのに、つい最近に知り合った人たちのために命張るなんて僕たちだけだよ。」
「慶次、更来・・・・。臧覇たちまで・・・・・。」
振り返った先には慶次と更来・・さらにその後ろには臧覇とその手下達。そして元匈奴兵達。
「みずくせぇですぜ、兄貴!!」
『兄貴!!』
「あんた達は俺達を殺さなかっただけでなく、あのままだったら同胞に殺されていた俺達を仲間として引き入れてくれた・・・今恩を返すときだ・・・・。」
「すまない・・・・・。正面から迎え撃って敵の注意を俺たちに向ける・・・敵にココを一歩も通すな。」
「街は焼き払った・・・・これより追撃を開始する!!」
「須卜骨様・・・・何者かの馬が走ってきます!!」
須卜骨が部下の報告を聞き、振り返った瞬間その横を白馬が走りぬけた。
その白馬を追おうかと考えた須卜骨だったが、白馬を追うように謎の十数騎の武装した集団が突っ込んでくる。
「たかが数十で300に突っ込んでくるか?身の程知らずめ・・・殺せ!!」
謎の騎兵部隊に須卜骨の指示を受けた匈奴兵が群がる。
たちまち謎の騎兵達は馬から引き摺り下ろされ剣や槍で串刺しにされる。
「ふん・・雑魚が・・・・・・。っ!?」
明らかに致命傷を受けているはずの謎の騎兵達が何事もなかったかのように立ち上がり、
近くにいた匈奴兵達を斬り捨て始めた。
「弓兵部隊・・・矢だ、矢を放て!!」
「しかし味方がまだ・・・・!?」
「構わない、放て、放つんだ!!!」
弓を持った兵達が一斉に謎の騎兵達を取り囲み、一斉に矢を降りかけた。
矢は謎の騎兵達に多量に突き刺さるが、味方の兵も巻き込まれ、バタバタと倒れていった。
「止めろ!」
須卜骨の指示で弓兵は矢を放つのを止める・・・そして放った先には巻き添えを食った味方
の兵の死体と・・・何本もの矢を受け倒れた謎の騎兵達。
それを見て笑みを浮かべた須卜骨だったが、それはすぐに一変する。
謎の騎兵達は矢が刺さったままでゆっくり起き上がったのだ。
そして一人の騎兵が自分に刺さっていた矢を一本引き抜いて・・馬に備え付けていた弓を持ち、血のついた矢を弓に装填しゆっくりと構える。
「不死身か・・・?」
この言葉が須卜骨の最後の言葉となった・・・言った直後に謎の騎兵の放った矢が首を撃ち抜き絶命したのだった。
「見事に誰もこねぇな・・・・。」
「もしかして僕たちが待ち構えているのを予想して遠回りした?」
「遠回りするにも何も、この道しか・・・、いや待て!!何か来た!?」
視線の中に入ってきたのは白馬に乗った少女の姿・・・・しかしその少女の服はボロボロにな
っており今にも馬から落ちそうになっていた。
「やばいね・・・・よっと!!」
すぐさま更来が馬に向かって走り、遂に落馬して少女を滑り込みでキャッチする。
白馬は臧覇が飛び乗りなだめて、落ち着かせる。
「ナイスキャッチ、更来♪」
慶次が親指を立てると更来も片手で少女を支えつつ空いた手で親指を立てる。
慧が臧覇に親指を立てると、何の意味がわからないように首を捻りつつ見よう見まねで
白馬上から親指を立てる。
「これは何の合図なんっすか?」
「ああ、『よくやった』って合図だ。移動手段である馬を押さえてくれてよくやったってことだよ。」
慧がそう言うと臧覇は目を輝かせる。
「よし、初めて兄貴に褒められたぁ!!どうだ、野郎ども!!」
“いいなぁ”“俺も褒めてもらいたいっす”などなど手下から声が上がる。
その光景に“はぁ”と溜息をついた慧だったが、その表情は再び硬くなる。
遠くから数十騎の武装した集団が砂埃を上げて突っ込んできたのだ。
すぐさま臧覇が弓を持った手下に指示を出し矢を放たせ、それが謎の騎兵達にあたり騎兵達は落馬する・・・・が、すぐに起き上がり剣を抜いて走ってくる。
「やるしかないか・・・。更来は一回後ろに下がれ、女の子を守るんだ。」
更来が頷き退避すると慧は大薙刀を構えて突っ込んでいく。それに続いて慶次や臧覇達も続く。
慧の薙刀が謎の騎兵を鎧ごと切り捨てる・・・が謎の騎兵は何事もなかったかのように
慧を斬ろうと剣を振り下ろす。
後ろに飛び退いて難を逃れた慧だがその顔には驚きが浮かんでいた。
臧覇達も同様に戸惑っているようで防戦一方の様相を示してきた。
更来はそんな戦闘が起きている場から少し離れた場所の木に少女を横たえ、足から出血していたのでハンカチで応急処置を済ます。
その場から慧達が戦っている場所を見るとかなり苦戦しているのが分かる。
「苦戦しているみたいだね・・・・。」
更来がそう呟いた時だった、少女が唸りと共にゆっくりと目を開ける。
『首だ・・・首を落とすしか・・あいつらを倒す術はない・・・。』
そう呟いて少女は再び気を失ってしまった。
「これは重要な情報を感謝・・ですね。さてと・・・・・おぉ〜〜い慧!!」
「頭を斬りおとす・・・・、簡単に言ってくれる・・。」
遠くからの更来の声に苦笑を浮かべつつ、薙刀の柄で剣を受け止める慧。
「でもやるしかないか・・・・・。」
受け止めていた剣を弾き、そのままの勢いで横に薙刀を一閃する。
そして謎の騎兵の首が切り落とされる。
それに習い他の味方も続々と謎の騎兵を打ち倒して行き、そして謎の騎兵を全て倒す。
「こんな化物に追われていたあの娘はいったい・・・?」
慧のそんな疑問は、民と避難中だった蔡エンに追いついた時点ですぐに判明した。
「董卓様の孫娘・・・董白様です・・・・・・・。」
一時的な休憩地点で蔡エンの言葉に臧覇は首を傾げる。
「おいおい、蔡エンの姉貴、董家一族は全て処刑されたって聞いてるぜ?」
「わ、私は姉・・・貴・・・ですか・・・。」
「いや、だって兄貴といい関係なんじゃないんっすか?だから姉貴と呼ぼうかと。」
「な、な、な、な、な、な、な、なっ!!」
蔡エンはうろたえて口をパクパクさせながら顔を真っ赤にして俯いてしまい、慧は思いっきり臧覇の頭を殴り飛ばす。
「・・・・・ゴホン!ま、まぁこの馬鹿のことはほっといてだな、あの女の子・・・董白をこれからどうするかを考える。」
『董白・・様と・・いえ、無礼者が・・・・・拷問に帰すぞ。』
その声にその場にいた全員が振り返るとそこにはフラフラと立ち上がった董白の姿。
「まだ一人じゃ立ち上がるのは無理だろ?手を貸すよ。」
そう言い慶次が董白を支えるために手を差し出すと、その手を董白は力なく払いのける。
慶次が文句を言おうとするのを更来は手で制し、代わりとでも言うかのように董白の頭を拳で軽い力でコツンと殴る。
「人の善意は素直に受けるべきだよ、位がどうとかそういうのは関係ない!!」
「き、貴様!よくも私を殴ったな!?御祖父様に言いつけて・・・・・・。」
怒る董白だったが言葉の途中で押し黙ってしまった。
そう、董白の祖父、董卓はもうこの世にはいないのだ。
押し黙ってしまった董白の体を更来はひょいっと持ち上げ、腰のかけやすい丸太の上に座らせ、更来は頭を下げる。
その姿に何故か董白は戸惑う。
「思わず殴っちゃったことは謝るよ、ごめんなさい。でね、疲れているところ悪いんだけどいろいろ聞きたいんだ。」
「・・・・・・・・・・ふ、ふん、ゆ、ゆ、許してやろう。しかし、素性もわからん貴様らに話す事などない!!」
「てめぇ!!助けてやったのに・・・・・・って兄貴?」
臧覇が怒るが慧は手で制し、視線を更来と合わせた後、頷き、更来と董白以外の人間をその場から遠ざけ、自分も離れる。
他の人たちが離れたのを確認した更来はゆっくりと口を開く。
「人がしんよう出来ないかい?」
「当たり前だ・・・自分の家系の者以外は・・・・・・」
「大抵、金、権力、美貌・・・・自分に近づいてくる人間は大体がその目的で・・・本当の自分を見てくれる人はいない・・・・そう言いたいんでしょ?」
董白は更来の言葉にハッと驚きの表情を浮かべる。
「なんで分かるか?って思ったかい?ん〜まぁ僕も君と同じ境遇だったのさ。
親や親類からは溺愛されてて・・・・でも他人が信用できなくて・・・・人生が面白いと思ったことは一度もない。」
図星だったようで董白は口を紡いでしまった。
それに苦笑した更来は董白の前に座り込み、首をボキボキと鳴らせたあと口を開いた。
「少し昔話をしようか?聞いてくれるかな?」
董白は口を紡いだままだったので同意と汲み取って更来は話し始めた。